『ビッグバン宇宙論』上・下巻(サイモン・シン著 青木薫訳 新潮社2006年6月)は一般向けのこの分野の本の中では 出色のものである。良書として推薦したい。上巻(第V章「大論争」)から、『星までの距離を測定する』と題して、 星や星雲までの距離はどのようにして測定されたのか、その歴史を引用します。 これは実に多くの先人たちの努力の積み重ねであり、その過程は「距離の梯子」 (distance ladder)といわれている。最初のひとつの観測が次の観測の手掛かりとなり、また望遠鏡の大型化、写真術や分光器の 発明と相まって、ひとつひとつ梯子を上るようにして、だんだん遠くにある宇宙の星や銀河までの距離が明らかになったのである。 この章のタイトル「大論争」は、1920年4月にワシントンの米国科学アカデミーが開催した会議において、星雲はわれわれの 銀河系外の別個の銀河であるか、または銀河系内の天体であるか、当時を代表する天文学者ヒーバー・カーティス(星雲は銀河系外派) とハーロウ・シャプリー(星雲は銀河系内派)が議論を闘わせたものである。この時点でも、当時の天文学者たちはそれを知らなかったし、 また両陣営とも相手を圧倒的に論駁するだけの確定的証拠をもっていなかったのである。