ガリレオの落体運動の実験と論証
5 投げられた物体の運動は・・・
そこでわれわれはしばらく天文からはなれ、ガリレオの論ずるところを聞きましょう。投射体というのは、いうまでもなく、
投げられた、または放たれた物体のことですが、その運動の見本としてガリレオは次のようなものを想定しました。図を見てください。
いま高いところに一つの水平面を考え、その上に書いた線abに沿って物体がaからbに向かって等速運動をするものと考える。(これは
水平面の運動だから一つの慣性運動です。)ただし、ここで問題にする寸法は地球の大きさにくらべて非常に小さいとします。
そうすれば、水平面は球面でなく平面だと考えてよいし、線abも直線と考えてよい。
投射体の軌跡
そこでいま、この面がbで突然きれているものと
すれば、物体はこの点においてその重さのために鉛直線bnに沿う下むきの自然運動を得る。ここで直線abをeまで延長したと考え、
その延長線を等距離bc、cd、deにわけ、点c、d、eから鉛直線bnに平行な直線を等しい間隔をおいて引く。さらにbn上に、1、3、5、・・・
の比をなす間隔で点o、g、l・・・を考え、それらを通って水平線aeに平行な線を引き、そのそれぞれとさきほど引いた鉛直線
との交点をi、f、h、とする。そうすると、アポロニウスの幾何学によって曲線bifh・・・が放物線になることが証明できるが、
われわれの物体はこの延長線上を動くであろう。なぜなら、このとき、水平直線ab上を走っていた物体は慣性によってそのままb
以後にもその運動を保つであろうし、それと同時に鉛直方向に1、3、5、・・・の法則に従って自然落下するだろうからである。
いうまでもなくこの結論を導くとき、水平面上を走ってきた物体の慣性運動が、水平面が切れた後にもそのまま保たれ、落下
作用の開始によってそれは何の影響も受けずに落下運動と合成される、ということが仮定されています。
さらに、この「見本」では放物線に沿う落下を問題にしていますが、落下する物体が持っている運動量はそれを逆に用いる
ならもとの高さに運ぶことができる、という趣旨のことをガリレオはしばしばいっていることから、下から上へ投げたときの
物体の運動も同様に放物線を描くという結論が得られます。
水平な等速運動と鉛直落下運動とがそのまま合成されるという仮定が正しいか否かは、実際に投射体が放物線を描くかどうかを
実験してみて決定されるべきことです。そこでガリレオは、小型の弩(おおゆみ・いしゆみ)を作り、それで物体を弾(はじ)く
実験をし、その物体が放物線径路をほとんどはずれずに動いたと報告しています。このようにして彼は投射体の運動法則を
「観察事実に拠りどころを求めつつ」見つけているのです。
この実験はさっき問題にした船の実験にすぐ適用できます。すなわち、図の鉛直線amを船のマストと考えましょう。そして
マストの頂上がbにきたとき―またはマストの根もとがnにきたとき―石とマストとのつながりを切って石を落下させたとしましょう。
そうすると石がm'に落ちてきたときマストの頂上はa'にきており、その足もちょうどnからm'に移動しているはずです。だから石は
まさにマストの足もとに落下する。すなわち船に乗っている人から見ると、頂上a'から足もとm'に鉛直に落ちたように見えるわけです。
こうして、船が動いているか止まっているかに無関係に、マストから落された石はマストの足もとに落下するのです。
6 大地の運動は検出できない 次頁
4 船のマストの頂上から鉛の球を落としてみる 前頁
ガリレオの落体運動の実験と論証 目次