物理の窓

ガリレオの落体運動の実験と論証

4 船のマストの頂上から鉛の球を落としてみる

『天文対話』という名が示すように、この本の眼目はなんといっても天動説の打破でした。ですからこの辺で話をそちらに 移しましょう。
ガリレオは先ず大地は不動だというアリストテレス派の論拠を紹介します。それはこのようなものです。誰でも知っている ように重い物体が高所から落とされると、大地の表面に垂直な直線に沿って落ちてくるが、このことは論議の余地なく大地の不動 なことを証明している。なぜかというと、もし大地が動くなら、たとえば塔の上から石を落としたとき、石が着地するまでに塔は 大地の運動によって西から東へ運ばれているから、石は塔の根もとに落下せず、 より西のほうに落下するはずだ。
アリストテレス派の主張・大地は静止している論拠/
アリストテレス派の主張
大地は静止している論拠

✽ ここでは地球の自転のことだと考えてよい。 もちろん自転に重なって公転も大地の運動に参与しますが、それには目をつぶることにします。

しかしガリレオにとってこの主張は論議の余地がないどころか、大いにあることでした。彼はそのことを示すために次の実験を 提案します。それは船のマストの頂上から鉛の球を落としてみるという実験です。船が水上でじっとしているなら、その球はたしかに マストの足もとに落下する。そこで、その落下点にしるしをつけておく。次に、船が水上を走っているときに 同じことをやってみる。そうすると、もしアリストテレス派の論法が正しいなら、球が着床するまでに船は前方に動いているから、 球の落下地点はマストの足もとのしるしの点より後方になるべきだ。
そしてガリレオは、もしこの実験をやればアリストテレス派の論法の誤りがすぐわかるだろう、といいます。なぜなら、 船が止まっていても動いていても、マストから落とした急は常に足もとのしるしのところに落下するからだ。 まさにそれが実験の結果なのだ、と彼はいいます。だとすれば、塔の根もとに石が落ちるから大地は動かない、というアリストテレス 派の論拠はくずれ去ります。
しかし、ガリレオはこのような船の実験を本当にやったかどうか明確にはいっていません。そしておそらくやってはいない でしょう。にもかかわらず、マストから落とした球が船の運動の有無に関係なく、常にその足もとに落ちる、と彼がいいきったのは、 彼が投射体の実験から得た結論だと考えてまちがいないでしょう。彼は投射体について詳しい実験と理論的考察を行っており、 晩年の著書『新科学対話』でたっぷりと論じています。

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3 動いている物体は永久に動きつづける 前頁

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更新2009年1月29日