私の万葉集 巻第八

志貴皇子しきのみこよろこびの御歌みうた一首

1418

石走いはばしる 垂水たるみうへの さわらびの  づる春に なりにけるかも

春の日の到来を、これほど見事な情景描写で表現した歌は、そう無いと思います。この歌は、万葉集のなかから、パッと飛び込んでくるのです。垂水というのは、大きな滝ではなく、川瀬を少し大きくした感じで、川の流れの中で水が勢いよく流れ落ちている処のような気がします。垂水の岸辺にわらびが生えているのが見えているのですから。
1418
志貴皇子―天智天皇の第七皇子。
石走る―岩の上を勢いよく流れる。
垂水―高い所から流れ落ちる水。滝。

岡本天皇おかもとのてんわう御製歌おほみうた一首

1511

ゆふされば 小倉をぐらの山に 鳴く鹿しかは 今夜こよひは鳴かず  ねにけらしも

心理や解釈を交えることなく、自然を自然のままに詠んで、歌になっています。
1511
岡本天皇―舒明天皇。皇后の天豊財重日足姫(あめとよたからいかしひたらひめ)(皇極・斉明天皇)が舒明天皇と同じく岡本宮に都し、後岡本宮と呼ばれた。
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巻第八終了。2首採集―全246首。

更新2007年8月2日