Act 4 |
第四幕 |
SCENE 3 England. Before the King's palace. Enter MALCOLM and MACDUFF |
第三場 イングランド。王の宮廷の前。 マルコムとマクダフ入場 |
MALCOLM Let us seek out some desolate shade, and there
Weep our sad bosoms empty. |
マルコム どこか寂しげな木陰を探して
悲しい胸の内が空っぽになるまで泣こうではないか。 |
MACDUFF Let us rather
Hold fast the mortal sword, and like good men Bestride our down-fall'n birthdom: each new morn New widows howl, new orphans cry, new sorrows 5 Strike heaven on the face, that it resounds As if it felt with Scotland and yell'd out Like syllable of dolour. |
マルコム そんなことより、
しっかり剣を取って、正義の戦士として、 倒れた故国を助けだしましょう。朝が来る度に 寡婦は嘆き、孤児はわめき、新しい悲しみは 天を突き上げ、天もまた呼応して、 スコットランドとともに 悲しみの声を張り上げています。 |
MALCOLM What I believe I'll wail,
What know believe, and what I can redress, As I shall find the time to friend, I will. 10 What you have spoke, it may be so perchance. This tyrant, whose sole name blisters our tongues, Was once thought honest: you have loved him well. He hath not touch'd you yet. I am young; but something You may deserve of him through me, and wisdom 15 To offer up a weak poor innocent lamb To appease an angry god. |
マルコム わたしが信じるものなら、わたしは泣こう。
わたしが知っているものなら、信じよう。わたしが過ちを正せるものなら、 時至れば、友に詫びよう。 あなたが語ったことは、その通りかもしれない。 しかし、名を口にしただけでも舌がただれるこの暴君は、 かっては高潔な男であったのだ。あなたも彼を敬愛していたではないか。 彼はあなたを殺(や)ろうとしてはいない。わたしはまだ若いが、 暴君への手土産として、哀れな無垢の子羊として、わたしを差し出せば、 あなたの手柄になるだろう、そのくらいは分かっている。 |
MACDUFF I am not treacherous.
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マクダフ わたしは裏切り者ではありません。
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MALCOLM But Macbeth is.
A good and virtuous nature may recoil In an imperial charge. But I shall crave your pardon; 20 That which you are my thoughts cannot transpose: Angels are bright still, though the brightest fell; Though all things foul would wear the brows of grace, Yet grace must still look so. |
マルコム しかし、マクベスは裏切り者になった。
いかに清廉潔白であっても、王の命令とあらば、 堕落するものだ。ご容赦して欲しいが、 わたしはあなたに対する疑惑を解いてはいない。 天使というのは輝いているものだ、しかし一番輝いていたルーシファだって地獄へ堕ちたのだ、 すべて悪というものは、善の冠を被る、 それでも善はそれらしく輝いて見えるものだ。 |
MACDUFF I have lost my hopes.
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マクダフ ああ、わたしの希望は絶たれました。
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MALCOLM |
マルコム 多分そこが、わたしの疑いが芽生えたところだ。
何故あなたは妻や子を守ることをせず、 この大切な宝物、強い愛の絆に、 別れも告げずに立ち去ったのか。 わたしの疑いを、あなたの不名誉と取らないで欲しい、 これはわたし自身の用心のためなのだ。わたしがどのように思っていようと あなたは多分正しいのかもしれない。 |
MACDUFF Bleed, bleed, poor country!
Great tyranny! lay thou thy basis sure, For goodness dare not check thee: wear thou thy wrongs; The title is affeer'd! Fare thee well, lord: I would not be the villain that thou think'st 35 For the whole space that's in the tyrant's grasp, And the rich East to boot. |
マクダフ おお、血を流せ、哀れな国よ。
なんという暴政。お前はしっかりその基礎を固め、 お前の横暴を制するものはない。お前は悪に身を固めている。 お前の権利は保障されている。殿下、お別れです。 わたしはあなたが思っているような悪党ではありません、 たとえ、暴君の統治する全領土に加えて豊かな東側の領土をやると言われても、 裏切るような男ではありません。 |
MALCOLM Be not offended:
I speak not as in absolute fear of you. I think our country sinks beneath the yoke; It weeps, it bleeds; and each new day a gash 40 Is added to her wounds: I think withal There would be hands uplifted in my right; And here from gracious England have I offer Of goodly thousands: but, for all this, When I shall tread upon the tyrant's head, 45 Or wear it on my sword, yet my poor country Shall have more vices than it had before, More suffer and more sundry ways than ever, By him that shall succeed. |
マルコム 気を悪くしないでくれ。
あなたを全く信用していないのではない。 われらが祖国はくびきの下に沈み、 嘆き、血を流している。毎日新しい切り傷が 古い傷口に加えられている。わたしはまたこうも思っている、 わたしに味方して立ち上がる人々もいるだろう。 そしてここ恵み深いイングランドでも、わたしは 何千と言う軍の申し出も受けている。しかしそれにもかかわらず、 わたしが暴君の頭を踏みつけ 剣にかけたとしても、それでも哀れなわが祖国は それ以前よりもっと多くの悪徳がはびこるり、 もっと多くの苦しみがより一層多彩な方法で、 後を継いだ者によってもたらされることになろう。 |
MACDUFF What should he be?
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マクダフ それは一体誰ですか。
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MALCOLM It is myself I mean: in whom I know
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All the particulars of vice so grafted That, when they shall be open'd, black Macbeth Will seem as pure as snow, and the poor state Esteem him as a lamb, being compared With my confineless harms. |
マルコム わたし自身のことを言っているのだ。
わたしにはいろんな悪徳が接木されているので いったん芽吹くと、悪のマクベスさえも 雪のように純白に見えるだろう、そして わたしの際限のない悪行に比べれば 奴だって子羊だった、と思うようになるだろう。 |
MACDUFF |
マクダフ 地獄のなかのどんな連中だって
悪においてマクベスに勝る 悪魔はいないでしょう。 |
MALCOLM I grant him bloody,
Luxurious, avaricious, false, deceitful, Sudden, malicious, smacking of every sin That has a name: but there's no bottom, none, 60 In my voluptuousness: your wives, your daughters, Your matrons and your maids, could not fill up The cistern of my lust, and my desire All continent impediments would o'erbear That did oppose my will: better Macbeth 65 Than such an one to reign. |
マルコム 奴が残忍なことは認める、
好色で、貪欲で、偽物で、人をだまし、 短気で、悪意に満ちていて、名のある あらゆる罪をしょっている。しかしわたしの欲情には 底がないのだ。人の妻であろうと娘であろうと 年増(としま)の婦人であろうと女中であろうと、 わたしの色情の入れ物を満たすことはできないし、 わたしの欲望はどんな自制心も乗り越えて あふれ出すだろう。そんな統治者よりも マクベスの方がましだろう。 |
MACDUFF Boundless intemperance
In nature is a tyranny; it hath been The untimely emptying of the happy throne And fall of many kings. But fear not yet To take upon you what is yours: you may 70 Convey your pleasures in a spacious plenty, And yet seem cold, the time you may so hoodwink. We have willing dames enough: there cannot be That vulture in you, to devour so many As will to greatness dedicate themselves, 75 Finding it so inclined. |
マクダフ 不節制も度が過ぎると、
それ自体がすでに暴政です。 善政を敷いていた王家がとつぜん空位となり 多くの王が没落しました。しかしご自分のものを取り戻すのに、 恐れることはないでしょう。 それに、殿下が思う存分快楽を満足させて、 しかも高潔な評判を得て、世間を欺くことは如何様にも出来ます。 その気のある女ならたくさんいますよ。 殿下にその気があると知れば 身体をささげたいと思っている女は多すぎて いかな殿下の情欲でも全部をむさぼることなどできないでしょう。 |
MALCOLM With this there grows
In my most ill-composed affection such A stanchless avarice that, were I king, I should cut off the nobles for their lands, Desire his jewels and this other's house: 80 And my more-having would be as a sauce To make me hunger more; that I should forge Quarrels unjust against the good and loyal, Destroying them for wealth. |
マルコム それに加えて
もって生まれた悪い性格だが、 わたしは極めて貪欲なのだ、そんなわたしがもし王になれば、 貴族たちの首を切ってその領地を横取りし、 誰彼の宝石やら家屋やらを手当たりしだいに欲しがり、 欲は欲を生んで 限りなく膨らんでいくだろう、 そのため忠臣たちと不正な争いを起こし 富のために彼らを滅ぼすようになるだろう。 |
MACDUFF This avarice
Sticks deeper, grows with more pernicious root85 Than summer-seeming lust, and it hath been The sword of our slain kings: yet do not fear; Scotland hath foisons to fill up your will, Of your mere own: all these are portable, With other graces weigh'd. 90 |
マクダフ この貪欲というやつは、
一過性の情欲よりも根が深く有害です。 それが原因で、王たちも殺されました。しかし 恐れることはありません。 スコットランドには殿下の欲を満たすに充分な ご自身の地所があります。それに、これらすべてのことは許されるほど、 殿下には多くの美徳があるはずです。 |
MALCOLM But I have none: the king-becoming graces,
As justice, verity, temperance, stableness, Bounty, perseverance, mercy, lowliness, Devotion, patience, courage, fortitude, I have no relish of them, but abound 95 In the division of each several crime, Acting it many ways. Nay, had I power, I should Pour the sweet milk of concord into hell, Uproar the universal peace, confound All unity on earth. |
マルコム わたしにはそんなものは何もない。王にふさわしい美徳、
正義感、誠実、節度、信念、 寛容、忍耐、慈愛、謙虚さ、 献身、根気、勇気、強固な意志、 そんなものは欠片(かけら)もない、かえって わたしの性悪な罪の一つ一つが 変調していろいろな方面に広がっていく。もしわたしが権力を握れば 調和という甘いミルクを地獄に投げ込み、 恒久平和を揺るがし、 地上のすべての統一を破壊してしまうだろう。 |
MACDUFF O Scotland, Scotland!
100
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マクダフ ああ、スコットランドよ、もうだめだ。
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MALCOLM If such a one be fit to govern, speak:
I am as I have spoken. |
マルコム もしそのような者が統治するにふさわしいなら、そう言え。
わたしは語ったとおりの男だ。 |
MACDUFF Fit to govern!
No, not to live. O nation miserable, With an untitled tyrant bloody-scepter'd, When shalt thou see thy wholesome days again,105 Since that the truest issue of thy throne By his own interdiction stands accursed, And does blaspheme his breed? Thy royal father Was a most sainted king: the queen that bore thee, Oftener upon her knees than on her feet, 110 Died every day she lived. Fare thee well! These evils thou repeat'st upon thyself Have banish'd me from Scotland. O my breast, Thy hope ends here! |
マクダフ 統治するにふさわしい者だと、
いや、そんな者は生きるに値しない。ああ、惨めな国よ、 強奪した王座に、暴君は血の王杖を持って座している、 王座の正当な後継者は 自らの王位継承を放棄し、 自らの血筋を貶(おとし)めている、 いつこの国は健全な日々を再び迎えることができるのか。 あなたのお父上はこの上なく聖なる王であった。 あなたを生んだお妃はいつも神にお祈りし、 毎日最後の裁きに向きあう実に敬虔な方だった。お別れです、 あなたが自分自身に語った悪徳の数々、 それこそわたしをスコットランドから追い立てたものです、 ああ、希望は絶たれた。 |
MALCOLM Macduff, this noble passion,
Child of integrity, hath from my soul 115 Wiped the black scruples, reconciled my thoughts To thy good truth and honour. Devilish Macbeth By many of these trains hath sought to win me Into his power, and modest wisdom plucks me From over-credulous haste: but God above 120 Deal between thee and me! for even now I put myself to thy direction, and Unspeak mine own detraction, here abjure The taints and blames I laid upon myself, For strangers to my nature. I am yet 125 Unknown to woman, never was forsworn, Scarcely have coveted what was mine own, At no time broke my faith, would not betray The devil to his fellow and delight No less in truth than life: my first false speaking 130 Was this upon myself: what I am truly, Is thine and my poor country's to command: Whither indeed, before thy here-approach, Old Siward, with ten thousand warlike men, Already at a point, was setting forth. 135 Now we'll together; and the chance of goodness Be like our warranted quarrel! Why are you silent? |
マルコム マクダフよ、あなたのあふれる心情が、
あなたの真心の叫びが、わたしの魂から 黒い疑惑を拭い去り、わたしの疑惑は解け、 あなたの本物の真情に混じり合いました。悪魔のようなマクベスは このような様々な姦計を用いて わたしを取り込もうとしているので、わたしは用心深くなり、 軽々しく信じないことにしたのです。しかし天なる神は あなたとわたしの仲介になったのです。いまわたしは 正直にあなたに向き合い 自分を悪く言うのはやめましょう、ここに 自分に浴びせた誹謗中傷を取り消します、 自分の性格は全くそうではありません。 わたしはまだ女性を知りませんし、偽証したこともなく、 自分のものも欲しがらないほど欲はなく、 約束を破ったことはなく、悪魔でさえ仲間に売りたくはないし、 命より真実を喜びとします。先ほど言ったことは わたしの初めての嘘でした。本当のわたしは あなたとわが哀れな祖国に仕えることです。 事実、あなたが来られる前に 老シワードは一万人の兵をもって すでに準備万端整え、進軍を開始しました。 一緒にやりましょう。われらの勝利が われらの大義名分の正しさとともにあることを祈ります。 何故黙っているのですか。 |
MACDUFF Such welcome and unwelcome things at once
'Tis hard to reconcile. Enter a Doctor
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マクダフ こんなに嬉しいことと嬉しくないことと、同時に来るなんて。
気持ちが一つになりません。 医者入場
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MALCOLM Well; more anon.--Comes the king forth, I pray you?
140
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マルコム さて、すぐあとでもっと話しましょう。王が来られます。そうでしょう。
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Doctor Ay, sir; there are a crew of wretched souls
That stay his cure: their malady convinces The great assay of art; but at his touch-- Such sanctity hath heaven given his hand-- They presently amend. |
医者 はい、そうです。病に難破した一群の人たちが
王の業(わざ)を待っています。彼らの病気は、手を尽くしても、 今の医術では治りません。しかし王が手を触れると、 天はそのような神聖な不思議を王の手に与え給うたのです、 彼らはたちどころに治ります。 |
MALCOLM I thank you, doctor.
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Exit Doctor
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マルコム ありがとう、先生。
医者退場
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MACDUFF What's the disease he means?
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マクダフ 何の病気のことを言っているのですか。
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MALCOLM 'Tis call'd the evil:
A most miraculous work in this good king; Which often, since my here-remain in England, I have seen him do. How he solicits heaven, Himself best knows: but strangely-visited people, 150 All swoln and ulcerous, pitiful to the eye, The mere despair of surgery, he cures, Hanging a golden stamp about their necks, Put on with holy prayers: and 'tis spoken, To the succeeding royalty he leaves 155 The healing benediction. With this strange virtue, He hath a heavenly gift of prophecy, And sundry blessings hang about his throne, That speak him full of grace. Enter ROSS
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マルコム 悪の病気といっています。
この善き王のまったく奇跡的な業です。 わたしがイングランドに来てから 何度も見ています。どのように王は天に祈願するのか、 その方法は王ご自身しか知りません、しかしこの病にかかった人々は みな、腫れあがって腫瘍ができ、見るも哀れなのですが、 この医術が見放した不治の病を、王は治します。 金のコインを病人の首の回りに垂らし 聖なる祈りとともにそれをかけます。 王は歴代の後継者に この聖なる治癒力を伝えるそうです。この類稀なる美徳に加えて、 王は予言の力も備えています、 こうしていろいろな神の恵みが王座を祝福しているので、 王は神のごとく敬われています。 |
MACDUFF See, who comes here?
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マクダフ 誰か来るぞ。
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MALCOLM My countryman; but yet I know him not.160
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マルコム 国の者だ。しかしわたしの知らない者だが。
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MACDUFF My ever-gentle cousin, welcome hither.
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マクダフ やあ、いとこだ、よく来たな。
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MALCOLM I know him now. Good God, betimes remove
The means that makes us strangers! |
マルコム わたしは彼を知らない。しかし直ちに、
他人同士の垣根は取り払いましょう。 |
ROSS Sir, amen.
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ロス お久しぶりです。
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MACDUFF Stands Scotland where it did?
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マクダフ スコットランドはどうなっているか。
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ROSS Alas, poor country!
Almost afraid to know itself. It cannot 165 Be call'd our mother, but our grave; where nothing, But who knows nothing, is once seen to smile; Where sighs and groans and shrieks that rend the air Are made, not mark'd; where violent sorrow seems A modern ecstasy; the dead man's knell 170 Is there scarce ask'd for who; and good men's lives Expire before the flowers in their caps, Dying or ere they sicken. |
ロス ああ、哀れな国になってしまった。
知るのが怖いくらいだ。もう われわれの母国とは言えません、われわれの墓場です。 事情を知らない者だけがにやにやしています。 ため息とうめきと悲鳴が空気を切り裂いて聞こえてきますが、 人の姿は見えません。暴力がはびこり悲しみがあふれ、 それが日々の常態になっています。死者の弔いの鐘の音は絶えず、 誰のものかと聞く人もいません。心正しき人の生は、 帽子の花がしおれる間もなく、 事切れています。 |
MACDUFF O, relation
Too nice, and yet too true! |
マクダフ おお、その報告、
あまりにも正確でしかもまったくその通りだ。 |
MALCOLM What's the newest grief?
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マルコム 最も新しい嘆きは何なのか。
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ROSS That of an hour's age doth hiss the speaker:
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Each minute teems a new one. |
ロス 一時間前のことは語れません、
一分ごとに新しい嘆きが生まれていますので。 |
MACDUFF How does my wife?
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マクダフ わたしの妻はどうなのか。
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ROSS Why, well.
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ロス ええ、安らかです。
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MACDUFF And all my children?
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マクダフ 子供たちはどうなのか。
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ROSS Well too.
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ロス 安らかです。
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MACDUFF The tyrant has not batter'd at their peace?
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マクダフ 暴君はわたしの家族の平和を打ち壊していないのか。
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ROSS No; they were well at peace when I did leave 'em.
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ロス いいえ、わたしがお暇したときは、皆安らかでした。
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MACDUFF But not a niggard of your speech: how goes't?
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マクダフ 口ごもっているようだな。どうなんだ、はっきり言え。
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ROSS When I came hither to transport the tidings,
Which I have heavily borne, there ran a rumour Of many worthy fellows that were out; Which was to my belief witness'd the rather, For that I saw the tyrant's power a-foot: 185 Now is the time of help; your eye in Scotland Would create soldiers, make our women fight, To doff their dire distresses. |
ロス わたしが悲しみを背負って
こちらに知らせを運んできたとき 多くの勇敢な者たちが反乱の準備をしていると うわさが流れていました。わたしは暴君の軍が動き出しているのを見ましたので、 うわさは本当だと信じます。 今こそ援軍を送るべき時です。あなたがスコットランドに現われれば、 兵はきそって集まってくるだろうし、女たちも 重い苦難を振り払うために立ち上がるでしょう。 |
MALCOLM Be't their comfort
We are coming thither: gracious England hath Lent us good Siward and ten thousand men; 190 An older and a better soldier none That Christendom gives out. |
マルコム われわれの進軍は
彼らを勇気付けることになろう。恵み深いイングランドは 勇敢なシワードと一万の兵を貸してくれた、 彼より経験のつんだ勇将は キリスト教国にはいないだろう。 |
ROSS Would I could answer
This comfort with the like! But I have words That would be howl'd out in the desert air, Where hearing should not latch them. |
ロス わたしが同じような励ましで
お答えできればいいのですが。しかし 聞く人もない荒れ野でこそ叫ばれてほしい 知らせがあります。 |
MACDUFF |
マクダフ どんなことか。
スコットランド全体にかかわることか、それとも 特定の個人にかかわることなのか。 |
ROSS No mind that's honest
But in it shares some woe; though the main part Pertains to you alone. |
ロス まことの心を持った人なら
知って嘆かない者はいないでしょう。主として あなた自身にかかわることです。 |
MACDUFF If it be mine,
Keep it not from me, quickly let me have it. 200 |
マクダフ わたし自身のことなら
隠さないでほしい。すぐ知りたい。 |
ROSS Let not your ears despise my tongue for ever,
Which shall possess them with the heaviest sound That ever yet they heard. |
ロス あなたの耳がわたしの舌を恨まないでほしい、
かって聞いた中で 最も悲しい口調で伝えます。 |
MACDUFF Hum! I guess at it.
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マクダフ そうか、察しはついたぞ。
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ROSS Your castle is surprised; your wife and babes
Savagely slaughter'd: to relate the manner, 205 Were, on the quarry of these murder'd deer, To add the death of you. |
ロス あなたの城は奇襲されました。奥方も子供も
残忍に殺されました。その詳細を語ることは 殺された鹿の屍の山に あなたの死を加えることになりかねません。 |
MALCOLM Merciful heaven!
What, man! ne'er pull your hat upon your brows; Give sorrow words: the grief that does not speak Whispers the o'er-fraught heart and bids it break. 210 |
マルコム おお、
なんということだ。もはや決して帽子を頭にのせるな。 悲しみを言葉に出せ。口に出さない嘆きは 落ち込んだ心に語りかけ、心を壊してしまう。 |
MACDUFF My children too?
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マクダフ 子供たちもか。
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ROSS Wife, children, servants, all
That could be found. |
ロス 奥方様も子供たちも使用人たちも、全部です、
手当たりしだいに。 |
MACDUFF And I must be from thence!
My wife kill'd too? |
マクダフ ああ、そんなときに家を離れていたとは。
妻も殺されたのか。 |
ROSS I have said.
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ロス そうです。
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MALCOLM |
マルコム 気を確かに持て。
この深い悲しみを癒すには 復讐を薬にしなければ。 |
MACDUFF He has no children. All my pretty ones?
Did you say all? O hell-kite! All? What, all my pretty chickens and their dam At one fell swoop? |
マクダフ 奴には子供がいないのだ。幼い子供を皆殺しにするなんて。
全部って言ったな。なんと残酷な、全部だって。 わたしの幼いひよこたちそれに親鳥も 鷹が襲うように一撃のもとにやるなんて。 |
MALCOLM Dispute it like a man.
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マルコム 男らしく戦うのだ。
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MACDUFF I shall do so;
220
But I must also feel it as a man: I cannot but remember such things were, That were most precious to me. Did heaven look on, And would not take their part? Sinful Macduff, They were all struck for thee! naught that I am, 225 Not for their own demerits, but for mine, Fell slaughter on their souls. Heaven rest them now! |
マクダフ そうしましょう。
しかし今は男らしく感じなければ。 あのような者たちがこの世にいたのだ、 わたしの宝物だった。天が見ていて 味方にならなかったのか。罪深いマクダフ。 お前のせいで襲われたのだ。なんと、馬鹿だった。 あの者たちのせいではない、おれのせいだ。 あんな者たちを手にかけるとは、なんと残虐な。安らかにと祈るばかりだ。 |
MALCOLM Be this the whetstone of your sword: let grief
Convert to anger; blunt not the heart, enrage it. |
マルコム 剣を抜け、餌食にするのだ。
この嘆きを怒りに変えろ。心を研いで、怒りを表せ。 |
MACDUFF O, I could play the woman with mine eyes
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And braggart with my tongue! But, gentle heavens, Cut short all intermission; front to front Bring thou this fiend of Scotland and myself; Within my sword's length set him; if he 'scape, Heaven forgive him too! |
マクダフ ああ、目では女のように泣きながら、
口では勇ましことが言えるなら。 ええい、天の神々よ、もたもたするな。 このスコットランドの鬼を連れて来て、直接わたしと対決させろ、 剣の間合いに奴を立たせろ。 たとえ天が許したとしても、おれは許さん。 |
MALCOLM |
マルコム それこそ、男らしい。
さあ、王の処に行こう。出陣の準備は終わった。 あとは暇乞いの挨拶をするのみ。 マクベスは取り頃だ、揺すれば落ちるほどに熟れている。天の神々も 武装している。どんなことが起ころうとも、 明るい明日が待っているぞ。 |
Exeunt |
退場 |
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