そのとき、釈迦牟尼仏は眉間の間から光を放ち、東方の十八のガンジス川の砂の数に等しい諸仏の世界を照らし出した。
それを越えた向こうに、浄光荘厳
という名の世界があった。そこに仏がいて浄華宿王智
如来と号した。釈迦牟尼仏の光は、あまねくその世界を照らした。
その一切浄光荘厳国に、妙音という菩薩がいた。
善根を植え、百千万億の諸仏を供養して、親近し、ことごとくの深い智慧
を得ていた。また数限りない三昧を得ていた。釈迦牟尼仏の光明が達したとき、妙音菩薩は浄華宿王智仏に言った。
「世尊よ、わたしは娑婆世界に行って、釈迦牟尼仏を礼拝し、親しく供養し、また
文殊師利法王子菩薩、
薬王菩薩、
勇施菩薩、
宿王華菩薩、
上行菩薩、
荘厳王菩薩、
薬上菩薩に会いたいと思います」
そのとき浄華宿王智仏は、妙音菩薩に言った。
「お前はあそこの国へ行っても、その国を軽んじたり、見下したりしてはなりませんよ。娑婆世界は地は高低が
あって平らではなく、土石、山々などの穢れに満ちている。仏身は卑小で、菩薩たちも小さい。お前の身体は四万二千油旬あり、
わたしも六百八十万油旬ある。お前は端正で、幾百千の福相を有し、光輝いている。そうであるから、あそこに行って、仏や菩薩や
国土をさげすむような思いを起こしてはならない」
妙音菩薩は、仏に言った。
「世尊よ、わたしが娑婆世界に行けるのも、すべて如来の力であり、如来の神通力であり、如来の智慧のおかげです」
そして妙音菩薩は、座を立たず、身体を動かさず、三昧に入り、その力ではるか彼方の
霊鷲山に八万四千の蓮華の座を作った。
文殊師利法王子は、この蓮華を見て釈尊に訊いた。
「世尊よ、この見事な蓮華はどうして出現したのでしょう。このように多数の蓮華が、金の茎、銀の葉、紅の宝玉の台座を
しています」
釈尊は、文殊師利に言った。
「これは妙音菩薩が浄華宿王智仏の国から、八万四千の菩薩を伴ってこの娑婆世界に来訪し、われらを供養し礼拝
し、また法華経を供養し聞こうとしているのだ」
文殊師利は釈尊に言った。
「世尊よ、この菩薩はどのようにしてこの神通力を得たのでしょうか。どんな三昧を修行したのでしょうか。世尊よ、どうか
この菩薩の姿が見えるようにしてください」
釈尊は文殊師利の応えた。
「多宝如来が、妙音菩薩の姿を娑婆世界に見えるように現してくれるだろう」
多宝仏が妙音菩薩に言った。
「菩薩よ、文殊師利法王子が、お前の姿を見たいと言っておるぞ」
そのとき、妙音菩薩はかの国を去って八万四千も菩薩たちと共に現われた。瞬時に通過した国々は様々に揺れ、七宝の蓮華を降らし、
幾千万の天の楽の音が鳴り渡った。妙音菩薩の眼は大きな青い蓮華の葉のようで、面差しは素晴らしく端正で光輝いていた。
身体は黄金に輝き、無量の功徳を積んだ威風はあたりを払っていた。諸々の菩薩たちに囲まれて七宝の台座に坐り、虚空に留まって
釈迦牟尼仏の前に至り、頭面に足を礼して、百千金の値の真珠の飾りを奉って、釈尊に言った。
「世尊よ、浄華宿王智仏の伝言でございます。『世尊はお元気でしょうか。衆生は導きやすいでしょうか。
気ままで、頑なで、度し難いことはありませんでしょうか。また滅度して久しい多宝如来は、安らかでありましょうか』
わたしは多宝仏のお姿を拝みたいと思っております」
釈尊は多宝仏に告げた。
「この妙音菩薩が、御身の姿を見たいといっております」
多宝仏は妙音に言った。
「よろしい。お前は釈迦牟尼仏を供養し、法華経を聞き、また文殊師利菩薩に会うためにここに来たのだから」
そのとき華徳菩薩が釈尊に問うた。
「世尊よ、この妙音菩薩はどのような功徳を積んでこの神通力を得たのでしょうか」
釈尊は華徳菩薩に語った。
「昔、雲雷音王という名の如来がいた。
その国は現一切世間といい、
時代は喜見といった。妙音菩薩は百二十万年のあいだ、
幾百千の伎楽で雲雷音王仏を供養し、八万四千の鉢を奉った。それにより、今は浄華宿王智仏の国に生まれ、この神通力を得たのである。
華徳よ、この妙音菩薩はかって無量の諸仏に仕えて供養し、またガンジス川の砂の数に等しい仏に会っているのだ。華徳よ、
妙音菩薩の身体は現にここに在ると見えるだろうが、この菩薩は様々な身体に変身して現われ、いたるところの衆生にこの経を
説いてきたのである。あるところでは梵王
の姿をし、あるところでは帝釈天の姿を現し、
あるいは自在天、あるいは大自在天、
あるいは天の大将軍、あるいは梵王、
あるいは転輪聖王、
あるいは諸々の小王、あるいは長者、居士、宰相、婆羅門、
毘沙門天王、
比丘、
比丘尼、
優婆塞、
優婆夷、長者居士の婦人、宰相の婦人、
婆羅門の婦人、男、女、天、竜、夜叉、
乾闥婆、
阿修羅、
迦楼羅、
緊那羅、
摩護羅迦、人、非人等の姿を現してこの経を説き、
地獄、餓鬼、畜生等のものたちを救済し、王の後宮では
女身に変身して救済してきたのである。華徳よ、この妙音菩薩は娑婆世界の諸々の衆生の救済者なのである。
この菩薩はこのように時と処に応じて変身し、人々を説くのである。
声聞には声聞の姿で、
辟支仏には辟支仏の姿で、
菩薩には菩薩の姿で、
仏には仏の姿で現われて法を説くのである。華徳よ、妙音菩薩はこのような神通力と智慧の力をもっているのである」
また華徳菩薩は、釈尊に問うた。
「世尊よ、この菩薩はどんな三昧にあって、このようにいたるところに現われて衆生を救えるのですか」
釈尊は答えた。
「それは現一切色身三昧
という。ここに住して衆生を利するのである」
この妙音菩薩品を説いたとき、妙音菩薩と一緒に来た八万四千の菩薩たちはみな現一切色身三昧を得、娑婆世界の無量の菩薩たちも
またこの三昧と陀羅尼を得たのである。
妙音菩薩は釈迦牟尼仏と多宝仏の塔を供養して、本土に帰った。通過した諸国は様々に揺れ、宝玉の蓮華が降り、幾千万
の楽の音が鳴り渡った。本国に帰って、浄華宿王智仏のもとに至り、告げた。
「世尊よ、わたしは娑婆世界に行って、衆生に利益を与え、釈迦牟尼仏を拝見し、多宝仏の塔を拝見し、礼拝し供養し、
また文殊師利法王子菩薩、薬王菩薩、
得勧精進力菩薩、勇施菩薩に会い、
またこの八万二千の天子たちに不生不滅の法を会得させ、華徳菩薩は法華三昧を得ました」
頁をめくる 観世音菩薩普門品第二十五
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