行く雲に聞け

あなたの亡くなった夕べ
小川のほとりで
ベンチにぼんやりと座っている

空からも川面からも
涼しい風が吹いてくる
鳥が飛んでゆく

ここはあなたが好きだったところ
瀬谷区宮沢町和泉川のほとり
関が原の水辺

いつも忙しかったあなたは
自転車でこの辺りを通り過ぎるだけで
ゆっくり歩く暇はなかった

小康を得て
ひと時自宅に戻り
やっと散歩の時間がとれたのに

ああなんという悲しい体力の衰え
あんなに元気だったあなたが
やっと家まで歩いてきたなんて

そして突然
あなたは逝った
この世に一言も残さず

ああ いつかの夕べのように
いつもの夕べのように
穏やかなたそがれがくる

空からも川面からも
涼しい風が吹いている
鳥が飛んでゆく

あなたがいなくなったのに
すべてがいつものとおり過ぎてゆく
なんという不思議だ

吹く風に
行く雲に
飛ぶ鳥に聞け

あなたはどこにいるのか

二0一二年十月記
前頁 詩篇トップ 次頁  HOME