『パンセ』を読む

第ニ章 神なき人間の惨めさ

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私は長いあいだ、抽象的な諸学問の研究に従事してきた。そして、それらについて、通じ合うことが 少ないために、私はこの研究に嫌気がさした。私が人間の研究を始めた時には、これらの抽象的な学問が 人間には適していないこと、またそれに深入りした私のほうが、それを知らないでいた人たちよりも、 よけいに自分の境遇から迷いだしていることを悟った。私は、他の人たちが抽象的な諸学問を少ししか 知らないことを許した。しかし、私は、人間の研究についてなら、少なくともたくさんの仲間は見いだせる だろう、またこれこそ人間に適した真の研究なのだと思った。私はまちがっていた。人間を研究する人は、 幾何学を研究する人よりももっと少ないのだった。人間を研究することを知らないからこそ、人々は 他のことを求めているのである。だが、それもまた、人間が知るべき学問ではなかったのではなかろうか。 そして、人間にとっては、自分を知らないでいるほうが、幸福になるためにはいいというのだろうか。

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公開日2008年1月29日