素粒子は粒子であるか
1 素粒子は通常の粒子と似たものであるか
すべての物質は原子からできている。そしてわれわれが眼に見、手に触れる物質の性質は、これら原子の離合集散、
結合の仕方などに帰着されるというのがギリシャ時代から考えられた原子論である。この原子論は物理学のなかに引き継がれ、
ほとんどそのままの形で、ただ実験的な実証と数学的な精密さを施されて、前世紀の物理学が出来上がったのである。ところが
今世紀にはいって、この原子がさらにいろいろな素粒子から出来ていることがわかった。そこで、すべての物質は電子・陽子・
中性子・中間子などの素粒子から組み立てられているということになった。ところで、これらの粒子は普通われわれが粒子
と呼ぶもの、すなわち例えば米粒や鉄砲玉のようなものを、ただ小さくしたものと考えていいのだろうか。前述したように、
われわれの眼に見え手に触れる、通常の物体のいろいろな性質、例えば、その色とか、温度とか、あるいは固さ、柔らかさ、
というようなものが、これら素粒子の離合集散、結合の仕方などに帰着させられるのであるから、これら素粒子自身が色ももたず、
温度ももたず、また固さや、柔らかさ、などという性質ももたないものであることはいうまでもない。少しひねくった言い方をすると、
素粒子とは、これこれの色をもつとか、これこれの温度をもつとかいう、文章の主語にはなれないようなもの
である。しかしそういう色とか温度とかの性質を抜き去れば、後は通常の粒子に似たものと考えていいものだろうか。例えば
空間内のどこかに位置を占めているとか、ある速度で運動しているとか、また一つ、二つと数えることが出来るという性質は、
米粒と鉄砲玉と同様に、素粒子ももっていると考えていいのであろうか。古い原子論における粒子は、実際そういうものと
考えられたのである、しかし現在の素粒子論が古い原子論と似た点をもちながら、根本において異なっている点の一つは、
素粒子がそんなものではない、ということを覚ったところにある。すなわち素粒子はある点では通常の粒子に似ているが、
他の点では全く似ていないのである。
素粒子が通常の粒子に似ている点と似ていない点とを、これからだんだんに述べていこう。
2 素粒子は一つ二つと数えることが出来る
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