・・・如何にして歌を作ろうかという悩みに身も細る想いをしていた平安末期の歌壇に、如何にして己を知ろうかという殆ど歌にもならぬ悩みを提げて西行は登場したのである。
― 小林秀雄「西行」より―
以下に山家集1552首より私の好きな歌を選んでみました。(管理人)
0025
鶯のこゑぞかすみにもれてくる人めともしき春の山ざと
0074
身をわけて見ぬこずゑなくつくさばやよろづのやまの花のさかりを
0077
ねがはくは花のしたにて春しなんそのきさらぎのもちづきのころ
0113
はる風の花のふぶきにうづまれてゆきもやられぬしがのやまみち
0211
つくづくと軒のしづくをながめつつ日をのみくらすさみだれの比
0353
ゆくへなく月に心のすみすみてはてはいかにかならんとすらん
0487
山ざとは秋のすゑにぞおもひしるかなしかりけりこがらしのかぜ
0513
さびしさにたへたる人のまたもあれないほりならべん冬の山ざと
0647
ともすれば月すむ空にあくがるる心のはてをしるよしもがな
0648
ながむるになぐさむことはなけれども月をともにてあかす比かな
0682
人はうしなげきはつゆもなぐさまずさはこはいかにすべき心ぞ
0714
おもひいづるすぎにしかたをはづかしみあるに物うきこの世なりけり
そらになる心は春のかすみにてよにあらじともおもひたつかな
世のなかをそむきはてぬといひおかんおもひしるべき人はなくとも
0937
とふ人もおもひたえたる山ざとのさびしさなくはすみうからまし
0997
ふるはたのそばのたつきにゐるはとの友よぶこゑにすごき夕暮
1090
松かぜはいつもときはに身にしめどわきてさびしきゆふぐれのそら
とりわきて心もしみてさえぞわたる衣河みにきたるけふしも
1419
おもへこころ人のあらばや世にもはぢむさりとてやはといさむばかりぞ
風になびく富士の煙の空にきえて行方を知らぬ我が思いかな
年たけて又こゆべしと思いきや命なりけりさやの中山
高野山の壇上伽藍と呼ばれている一角に小さなお堂があります。右の写真「西行桜」の奥に見えているのがそれです。三昧堂と呼ばれており、西行の住まいとされています。また桜は西行が植えたと立て札に書かれています。実に小ぶりな桜です。写真はクリックすると拡大します。
なお山家集に次の歌が載っております。
ちる花のいほりのうへをふくならばかぜいるまじくめぐりかこはん
(管理人)