歩き始めて、沈んだ気持ちになっているのに気が付いた。これから先の行程が見えて、もうこの旅も終わりに近づいていると思うと、 自然と憂鬱な気持ちになっていた。法輪寺の境内で呼び止められて、うつむきかげんで歩いているのに気がついた。 車のお遍路さんからパンとジュースのお接待を受ける。
熊谷寺で休憩していると、若い女性の遍路さんが前に座った。とりあえず徳島県を回ると言う。色々説明などし、 靴の話になったので自分の靴を見せると、両方とも裏に穴が開いているのに初めて気が付いた。 履き古したスニーカーを、今年の1月・5月そして今回と、ずっと履き続けていた。よく持ったものだ。
今日は遍路さんが大変多かった。どの寺も2〜3人の遍路さんがおり、道でもよくすれ違った。このコースはいつもそうなのか、 また土曜日のせいなのか。午後4時頃大日寺の境内で休んでいると、20代の青年の遍路さんは、階段ですれ違ってきちんと挨拶し、 丁寧に手順にのっとって上手に経を読んでいた。年配の夫婦連れの遍路さんがやって来る。そうこうするうちに、 菅笠をかぶり白い手拭いで半分顔を被った2人連れの女性の遍路さんが元気よく境内に着いたとときは、 一気に華やいだ遍路の世界が現出したような気分になった。境内が遍路さんでにぎやかなのもいいものだ。
旅館の宿泊費が高く素泊まりにした為、夕食に「支那そば 那東」の看板の店に入る。おかみさんの愛想のよい元気な挨拶を受け、 大盛を注文する。客は他に居なかったが、内装も新しく、若い夫婦で始めたばかりらしい。 メニューも至ってシンプルで、支那そば中・大・餃子の他は昼の定食だけで、ごちゃごちゃと余計なものはなし。 夫婦ともども気持ちのよい店だった。実家でとれたものですが、と言ってみかんの接待を受ける。 私の味の感想を厨房の主人にそっと報告している。看板に心意気を感じたが、支那そばも大変おいしかったですよ。
「地元にいると分かりません。四国はどうですか」とおかみさんが聞く。
「歩くには素晴らしい環境ですね。こんな所は他にないでしょう」と答える。
頑張って店を繁盛させてください。