早朝4時30分宿を出る。今日は45kmの長丁場に加えて、午後4時にはそえみず遍路道に入っていないと山道で暗くなる。 それはどうしても避けたかった。逆算すると4時には宿を出たいところであった。
宿の扉を開けて一歩外へ出ると、満天の星空だった。北斗七星が天頂近くにかかっている。海が目の前に広がり、 水平線の上にひときわ明るく、明けの明星が輝いていた。その黄色い光が帯状に広がって、海面をこちらの岸辺まで揺れている。 すばらしい眺めにしばし見とれていた。
夜明け前の暗闇の中をしばし歩いて空が白んでくる頃、屋根と囲いのあるバス停で一息ついていると、 どこで見ていたのかおじいさんがやって来て、寒いね気をつけて、と言って缶コーヒーを頂いた。まだ温かい。ありがたく、 すぐその場で飲んだ。まだ朝食も食べていない。
午前9時30分頃、片坂を越えたところでやっと喫茶店「喜久屋」が開いていたので、入ってモーニングを注文する。 高知の喫茶店は、コーヒーを飲んだあとに、必ずお茶がでてくる。この地方の習慣らしい。
岩本寺を打ち、境内でおにぎりの昼食をとる。
七子茶屋で休憩し、入り口を何度か確認してから遍路道に入るが、歩きはじめてすぐ道を間違えるところだった。 車の轍の道を入っていって、念のため後ろを振り返ると、別の細い道に空海の道ウォークの旗がぶら下がっていた。
そえみず遍路道は、「土佐中央と南西部を結ぶ往還として古くから人馬でにぎわって来た。遍路先人達も皆この道を辿って行った。 当会ではこの道を復元し、今後遍路修行のシンボルコースとして位置づけ、毎年8月末〜9月初旬の間に草刈行事を企画、布施修行 の場とすることにした。・・・」(『四国遍路ひとり歩き同行二人・別冊』へんろ道保存協力会宮崎建樹氏著)とある。 今は地元の人達も行事に多数参加しているようである。昔の道自体が歴史の遺跡になる。また歩く道は、人が歩かなければ廃れてしまう。
登りはすぐ尾根まで行き、しばらく尾根伝いに歩いてから、岩や石ころの転がっている下り坂が長く続く。 雑木林の間から見え隠れするが、外の視界は木々にはばまれて広がらない。およそ1時間半の行程だった。
自分では自覚していなかったが、今日の行程でぐったり芯から疲れた様子をしていたらしい。宿のおかみにそう言われた。 朝4時半から歩いていたのだから。