今日も長丁場なので、早く出発する。午後5時までに出来れば明石寺を打っておきたかった。順調に距離をかせぎ、 11時過ぎにWoody Lifeという喫茶店でコーヒーブレイクにする。ここは珍しくポットでコーヒーを出してくれる。450円だが2杯分ある。
喫茶店を出て札掛橋の手前、国道56号線から遍路道へ入るところで、停車中のキャンピングカーから中年の女性に呼び止められた。 杖だけ持って歩いている人がいるから、ここに停まっていると伝えて欲しい、と頼まれた。後から追いかけてきて、 コーヒー牛乳をいただく。遍路道に入ってしばらくすると、向こうから確かに杖だけ持った男性がぶらぶらやってきた。 立ち話をするうち、私が横浜から来たのを知ると、自分は関東学園中学の出身だと言う。こうして妻に車を運転させては、 折々に自分は歩いている、二人で楽しんでいる。本当にうらやましい夫婦だ。子供はいるのか知らん。
別れてから道なり歩いていったが、どうもおかしい気がして小型トラックで来た地元の人に尋ねると、遍路道ではないと言う。 親切に詳しく教えてくれたが、それらしい道がない。おかしいと思いながらしばらく歩いていると、また小型トラックが追いかけてきて、 今度は娘さんらしい人が道順を説明しなおしてくれた。竹林の中の山道をどんどん登って行くと、今来た道がはるか下のほうで 蛇行しているのが見える。登り切ったところで突然遍路道に出た。はるか下のほうに国道が走っているのが見える。 車道は峠をくりぬいて長いトンネルになっている。多分こうだろう、ここは四国山脈が東西に伸びている西端に位置し、 この道は南北に通っている。 昔の人は尾根の低いところを峠越えしたのだ、車道は出来るだけ平地を真っ直ぐ走らせるために、 トンネルをくりぬいて走っている。鳥坂峠は素晴らしい遍路道だった。下りきったところに番所跡が残っていた。
明石寺を打ち、境内を出ようとすると中年の女性のお遍路さんに呼び止められた。ずうっとテントで通してきていると言う。
びっくりして話を聞くと、息子さんが病気なので一緒に巡礼しているのだ。
「うつ病なんです、でも良くなってきているんです」
と小声で言う。
20歳前後の青年が納経帳を2冊持ってやってきた。寺の境内で野宿の許可が出ますかと聞くと、半々ですね、と青年が少し考えてから答える。
ここの許可をもらいに行ってくると言うのを、母親が制して、こういうことは女の方がいいから自分が行くと言っている。
こういう形でお遍路さんに出るというのは、どんなに大きな決意が必要だったことだろう。もっと話を聞いてあげればよかったと、
またあとで後悔する。