今日は35kmの長丁場だ。次の札所まで70kmあり、途中内子町で一泊するしかない。 ひわだ峠までは気持ちの良い山道を行く。
その先は下坂場峠というのもあるが、おおむねだらだらとした下り坂になる。小さな集落をいくつも通り過ぎ、 落合と言う所から田渡川・小田川と川沿いの道が続き、また小さな集落をいくつも過ぎる。
大瀬は大江健三郎の故郷で、いくつかの代表作はここを舞台にしているようだが、知らぬ間に通り過ぎてしまう。 後で振り返って出身校の大瀬小学校があったと思う。地図で見ていて山間部のすごい田舎と思っていたが、今は国道56号線沿いにある 小さな集落といった感じだ。食堂はなかったような気がする。内子町までは10km位だから、 今なら車で15分もあれば行けるだろう。しかし何もない田舎には違いない。このような平凡な田舎で感受性豊かな少年が 地域の風物を一杯に浴びて育ち、都会に出てどのような想像力と知性とをもって少年時の体験を再構成して行ったのか。 私は初期の作品二三篇読んだきりなのでよくは分からない。あのくねくねした曲がりくねった日本語がなじめなかったので、 ついてゆくのを途中でやめてしまった。
内子町の近くで無料遍路宿があったので、中を覗かしてもらった。布団があったから泊まれないことはないだろう。へんろみち 保存協力会の地図にも載っており、『四国遍路』で著者の辰野氏がここに泊まったときのエピソードを紹介している。土間があり、 ベッドのような板の間に布団が何組か畳んであった。持込で夕食の準備が必要だ。
途中で予約した松乃屋旅館は高かったので、夕食抜きで値下げ交渉の途中携帯電話が切れてしまった。 行ってみると内子座の真ん前の立派な旅館であった。布団も敷いてくれる、初めての旅館らしい旅館であった。 朝食付きで6000円になったので恐縮した。珍しく歩き遍路ばかり私を含めて5人の客があった。札所間70kmの長丁場では、 ここが中間点になる。
内子町は伊予の小京都といわれたところらしく、古い町並みが残っているのでぶらぶら見学がてら、夕食の店を探した。 内子座の通りを行くと、下芳我邸という130年前の民家を移築したそば屋があった。店自体が昔の大きな民家の造りで見事なものだった。 650円でいなりそばをとった。たいへん美味しくしかもボリュームたっぷりで、そば一杯で本当に満足した。