ある遍路日記  第9日目

2002年1月14日(月・祝)  
曇り

国道11号線に沿ってつかず離れず遍路道が走っている。静かで歩きよいが、いつの間にかスローペースになっている。 朝から足が重く、もう疲れている。9時には喫茶店を見つけて一息する。

コーヒーを飲みながら思う、人はそれぞれのこだわりを持って遍路に行く。人の世のしがらみの中で生き、 人生の来し方行く末を思って立ち止まる。ふと風が吹く、そして思い立つ、行ってみるか。

考えてみると白衣は死に装束であり、金剛杖は卒塔婆(そとば)であるから、形の上ではいったん死にに 行くのである、あるいは死を覚悟してゆくのである、実際はそれほど大袈裟なものではないが。そしてそこからまたこの世に戻ってくる のである。

昨日宿でザックの重さを量ったら11kgあった。案内に重量は5kgまでと書いてあったから、重すぎるのである。 一時は頭陀袋に地図3冊、ノート、カメラその他のものを入れて歩いていたから、はちきれんばかりの袋をぶら下げて 歩いていたことになる。それでも地図2冊は欠かせない。何か変だと思ったり、今自分の歩いている処や道標を確かめるために、 本を開いて地図を見ながら歩いている。

11時頃、旧道の家並みのなかを歩いていると、自転車に乗った20代若い男性に声をかけられた。歩いているんですか、どちらから来 ましたか、横浜からだと答えると、長距離のトラックに乗っていて、横浜にも何度も行ったらしい。家がすぐ近くだから寄っていけと言う。 家まで行くと、お母さんとお友達が玄関でお茶のみ話をしていた。注文にあまえてコーヒーをご馳走になる。 本人は自転車がパンクしたので直しに行けとお母さんに言いつけられて、行ってしまった。去年車両事故を起こして、 今失業中だという。優しい息子さんですねというと、私には食って掛かるんですよといいながらも、事故の話を詳しくしてくれた。

路傍のお地蔵さん
路傍のお地蔵さん

今日一日国道沿いに遍路道をひたすら歩く。遍路には一人も会わなかった。アスファルトの道なので足の裏が痛く、 親指の甲の部分にも痛みがある。

前神寺を打ってから、田圃の中の道を歩く。側溝に1.5m位の幅の水路が続き、水が勢いよく流れている。それがずっと続いていた。 何と言う地方なのだろうか、いかにも豊かな感じのする土地柄だ。中学校の野球部の生徒が走って私を追い抜いてゆく。 そのたびに皆挨拶をして行く。一番最後に先生が自転車で行く。先生も挨拶してゆく。遍路に対する土地柄だろう。

後で地図を見て分かったことだが、今日一日新居浜市をぬけていたらしい。宿は初めての宿坊だったが、 疲れていて夜も朝のもお寺のお勤めは遠慮した。

本日の行程

松屋旅館
07:00
27.2km

64番 前神寺 まえがみじ
16:00
3.3km

63番吉祥寺(きっしょうじ)
17:00
3.0km

香園寺(宿坊)
18:30

距離 33.5km
所要時間 11:30