梅枝 あらすじ
源氏 39歳 太政大臣
年が明けて、明石の姫君の裳着の儀式の準備に忙しくなる。二月には春宮の加冠の儀が予定されており、それに合わせて姫を入内させる計画である。裳着の当日、秋好む中宮に腰結いの役を頼んだ。
正月の月末で公けの行事も少ない頃、源氏は、薫香比べを企画した。ご夫人方にそれぞれの香りを作ってもらうのである。二品以上の品を組み合わせることにする。蛍兵部卿の宮が来たので、薫香比べの判者に頼んだ。薫香比べの後は、内大臣の子息たちも来て、宴が行われた。
入内の準備のひとつとして、草子が集められた。最上の筆と貴重な紙で装丁をした冊子を用意して、知りうる名筆に製作を依頼した。源氏は何ごとも昔はすぐれたものが多いが、仮名こそは、近年昔よりすぐれたもの出てきている、と感想を述べている。
よろづのこと、昔には劣りざまに、浅くなりゆく世の末なれど、仮名のみなむ、今の世はいと際なくなりたる。古き跡は、定まれるやうにはあれど、広き心ゆたかならず、一筋に通ひてなむありける。
(すべてのことに、今のものは昔に劣り、末世になって悪くなっているが、仮名だけは今の世のものが優れている。昔の筆跡は決まった書き方があったようで、自由な変化がなく、どれも似通っている )
蛍兵部卿宮もやって来て、宮家に伝わる嵯峨天皇の『古万葉集』四巻、醍醐天皇の『古今和歌集』を持参して、一緒に御覧になりその日を楽しむのだった。この二冊はそのまま源氏に贈呈した。源氏の箱には当代の能書家といわれる身分の高い人々の書いた草子、巻物などがたくさん集まっていた。源氏は、当今の名筆として、六条の御息所を挙げていて、手習いの時みて衝撃を受けたと語っている。次に当代の、名筆として朧月夜と朝顔の君と紫の上を挙げる。また自分も負けないものを書くと自負している。
巻名の由来
六条院での薫香比べの遊びの後、宴游が行われ、柏木が和琴、夕霧が横笛、興に乗って、柏木の弟の弁の少将が催馬楽の「梅が枝」を謡ったことによる。特定の歌はない。
梅枝 章立て
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- 32.1 六条院の薫物合せの準備
- 御裳着もぎのこと、思しいそぐ御心おきて、世の常ならず。春宮も同じ二月に、御かうぶりのことあるべければ、・・・。
- 32.2 二月十日、薫物合せ
- 二月の十日、雨すこし降りて、御前近き紅梅盛りに、色も香も似るものなきほどに、兵部卿宮渡りたまへり。
- 32.3 御方々の薫物
- このついでに、御方々の合はせたまふども、おのおの御使して、
「この夕暮れのしめりにこころみむ」
と聞こえたまへれば、・・・。
- 32.4 薫物合せ後の饗宴
- 月さし出でぬれば、大御酒など参りて、昔の御物語などしたまふ。霞める月の影心にくきを、雨の名残の風すこし吹きて、・・・。
- 32.5 明石の姫君の裳着
- かくて、西の御殿に、戌の時に渡りたまふ。
- 32.6 明石の姫君の入内準備
- 春宮の御元服は、二十余日のほどになむありける。
- 32.7 源氏の仮名論議
- 「よろづのこと、昔には劣りざまに、浅くなりゆく世の末なれど、仮名のみなむ、今の世はいと際なくなりたる。
- 32.8 草子執筆の依頼
- 墨、筆、並びなく選り出でて、例の所々に、ただならぬ御消息あれば、人びと、難きことに思して、返かえさひ申したまふもあれば、・・・。
- 32.9 兵部卿宮、草子を持参
- 「兵部卿宮渡りたまふ」と聞こゆれば、おどろきて、御直衣たてまつり、御茵参り添へさせたまひて、・・・。
- 32.10 他の人々持参の草子
- 左衛門督は、ことことしうかしこげなる筋をのみ好みて書きたれど、たまふ。
- 32.11 古万葉集と古今和歌集
- 今日はまた、手のことどものたまひ暮らし、さまざまの継紙つぎがみの本ども、選り出でさせたまへるついでに、・・・。
- 32.12 内大臣家の近況
- 内の大臣は、この御いそぎを、人の上にて聞きたまふも、いみじう心もとなく、さうざうしと思す。
- 32.13 源氏、夕霧に結婚の教訓
- 大臣は、「あやしう浮きたるさまかな」と、思し悩みて、
「かのわたりのこと、思ひ絶えにたらば、右大臣、中務宮などの、・・・。
- 32.14/ 夕霧と雲居の雁の仲
- †かやうなる御諌めにつきて、戯れにても他ざまの心を思ひかかるは、あはれに、人やりならずおぼえたまふ。
梅枝 登場人物
- 光る源氏 ひかるげんじ 三十九歳 ·····(呼称)大臣・大殿・殿、
- 夕霧 ゆうぎり 光る源氏の長男 ····· (呼称)宰相中将・宰相の君、
- 内大臣 ないだいじん ····· (呼称)内の大殿・内の大臣・大臣
- 柏木 かしわぎ ····· (呼称)頭中将
- 紫の上 むらさきのうえ ····· (呼称)対の上・上
- 花散里 花散里 ····· (呼称)夏の御方
- 秋好中宮 あきこのむちゅうぐう ····· (呼称)中宮・宮
- 蛍兵部卿宮 ほたるひょうぶきょうのみや ····· (呼称)兵部卿宮・宮・親王
- 明石御方 あかしのおんかた ····· (呼称)冬の御方・母君
- 明石姫君 あかしのひめぎみ ····· (呼称)御方
- 雲井雁 くもいのかり ····· (呼称)姫君・女、内大臣の娘、夕霧の恋人
※ このページは、渋谷栄一氏の源氏物語の世界によっています。人物の紹介、見出し区分等すべて、氏のサイトからいただき、そのまま載せました。ただしあらすじは自前。氏の驚くべき労作に感謝します。
公開日2020年//月//日/ 改定2023年5月22日