末摘花 あらすじ
源氏 18~19歳 参議兼近衛中将
源氏は、夕顔が忘れられず、あのような素直でやさしい女にめぐり会いたいと思っていた。ある時、乳母子の大輔の命婦から、故常陸親王が晩年にもうけて大切に育てた娘が世話をする者もなく、荒れた邸にひとり琴を友として住んでいる、と聞いた。源氏は命婦の手引きで、邸に入る。その場で、隠れて後をつけていた頭中将と鉢合わせをしたりした。
娘はそうとうに内気でなかなか姿を見せなかった。文を出しても返事が来ない。しばらく訪問は途絶えたが、雪の烈しく降る日に、荒れ果てた邸を訪問して、その雪明りの朝、源氏は娘の容姿をかいま見ることになる。
まづ、居丈の高く、を背長に見えたまふに、「さればよ」と、胸つぶれぬ。うちつぎて、あなかたはと見ゆるものは、鼻なりけり。ふと目ぞとまる。普賢菩薩の乗物とおぼゆ。あさましう高うのびらかに、先の方すこし垂りて色づきたること、ことのほかにうたてあり。
(まず、座高が高く、胴長に見えるので、「やっぱり」と、がっかりする。それに次いで、異様なのは、鼻であった。自然に目がそこへいってしまう。普賢菩薩の乗物かと思う。すごく高くのびて、先っぽが少し垂れて色づいているのが、とりわけ異様だった。)
驚いたことに、胴長で鼻が象のようであった、鼻の先が赤かった。末摘花は普通備えているべき教養もなく、琴も満足できるほどでなく、ただ内気だった。がっかりした源氏はそれでも世話をしようと決心する。末摘花とは紅花の異名である。中国から伝来し、染色に使われた。
それでも末摘花は、年末に古風な衣装の衣を和歌を添えて源氏に贈るのだった。
巻名の由来
荒れた邸にひっそり暮らしている、亡き常陸宮の姫君のことを聞いて、訪問を重ねたある雪の朝、姫の容貌を見て驚く。鼻が異常に大きく長くて赤い。巻名は自邸に帰ってから、書きすさんだ源氏の歌による。
なつかしき色ともなしに何にこのすゑつむ花を袖に触れけむ (源氏)(6.9)
歌意 心ひかれる人でもないのにどうしてこの赤い鼻の女を相手にしたのやら。
結局源氏は、宮家の貧しい暮らしぶりに同情し、姫君を援助する。末摘花は、紅花の異名。
末摘花 章立て
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- 6.1 亡き夕顔追慕
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思へどもなほ飽かざりし夕顔の露に後れし心地を、年月経れど、思し忘れず、ここもかしこも、うちとけぬ限りの、・・・。
- 6. 2 故常陸宮の姫君の噂
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左衛門の乳母とて、大弐のさしつぎに思いたるが女、大輔たいふの命婦みょうぶ とて、内裏にさぶらふ、・・・。
- 6. 3 新春正月十六日の夜に姫君の琴を聴く
- のたまひしもしるく、十六夜の月をかしきほどにおはしたり。
- 6. 4 頭中将とともに左大臣邸へ行く
- おのおの契れる方にも、あまえて、え行き別れたまはず、一つ車に乗りて、月のをかしきほどに雲隠れたる道のほど、・・・。
- 6. 5 秋八月二十日過ぎ常陸宮の姫君と逢う
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秋のころほひ、静かに思しつづけて、かの砧の音も耳につきて聞きにくかりしさへ、恋しう思し出でらるるままに、・・・。
- 6. 6 その後、訪問なく秋が過ぎる
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二条院におはして、うち臥したまひても、「なほ思ふにかなひがたき世にこそ」と、思しつづけて、・・・。
- 6. 7 冬の雪の激しく降る日に訪問
- 行幸近くなりて、試楽などののしるころぞ、命婦は参れる。
- 6. 8 翌朝、姫君の醜貌を見る
- からうして明けぬるけしきなれば、格子手づから上げたまひて、前の前栽の雪を見たまふ。
- 6. 9 歳末に姫君から和歌と衣箱が届けられる
- 年も暮れぬ。内裏の宿直所におはしますに、大輔の命婦参れり。
- 6.10 正月七日夜常陸宮邸に泊まる
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朔日ついたちのほど過ぎて、今年、男踏歌おとことうかあるべければ、例の、所々遊びののしりたまふに、・・・。
- 6.11 紫の君と鼻を赤く塗って戯れる
- 二条院におはしたれば、紫の君、いともうつくしき片生ひにて、「紅はかうなつかしきもありけり」と見ゆるに、・・・。
末摘花 登場人物
- 光る源氏 ひかるげんじ 十八歳から十九歳 参議兼近衛中将 ····· (呼称)君。
- 紫の上 むらさきのうえ 兵部卿宮の娘、藤壺宮の姪 ····· (呼称)紫のゆかり・紫の君・姫君。
- 末摘花 すえつむはな 常陸親王の一人娘 ····· (呼称)御女・姫君・常陸宮・女君。
- 頭中将 とうのちゅうじょう 葵の上の兄 ····· (呼称)頭の君・中将・君。
- 大輔の命婦 たいぶのみょうぶ 源氏の乳母子 ····· (呼称)命婦。
※ このページは、渋谷栄一氏の源氏物語の世界によっています。人物の紹介、見出し区分等すべて、氏のサイトからいただき、そのまま載せました。ただしあらすじは自前。氏の驚くべき労作に感謝します。
公開日2017年7月9日/改定2023年1月27日