人間にとって人類が重荷になった
人間にとって人類がいかに重荷であるかが日に日に明らかになっていく ハンナ・アーレント
ナチ体制の下にあったドイツでの大量殺戮は行政機構の「職務」として遂行された。一般の国民が、自らの「私的な生存」を護るため、職業人として属する組織の命令に従っただけと言いえたその事実に、米国に亡命した哲学者は震撼した。人がここまでなしうることへの怖れと責任の意識があまりに簡単に跨ぎ越されたことに。『アーレント政治思想集成1』(齋藤純一他訳)から 朝日新聞2022年7月3日 「折々のことば」鷲田清一より
ハンナ・アーレントは少し知っている。アイヒマンが捕まりイスラエルで行われた裁判の傍聴記を残している。「悪の凡庸さ」というのがその趣旨だった。ホロコーストに責任ある立場でかかわったアイヒマンという男が、一介の市民で、いかに凡庸な男であったか驚きを隠せなかった印象を綴ったものだった。そのような男が人類史上恐るべき大量殺戮に加わっていたことに、その印象の落差に驚いたものだった。 管理人