成人の日に 谷川俊太郎
人間とは常に人間になりつつある存在だ
かって教えられたその言葉がしこりのように胸の奥に残っている
成人とは人に成ること
もしそうなら
わたしたちはみな日々成人の日を生きている
完全な人間はどこにもいない
人間とは何かを知りつくしている者もいない
だからみな問いかけるのだ
人間とはいったい何かを
そしてみな答えているのだ
その問いに
毎日のささやかな行動で
人は人を傷つける
人は人を慰める
人は人を怖れ
人は人を求める
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子どもとおとなの区別がどこにあるのか
子どもは生れ出たそのときから小さなおとな
おとなは一生おおきな子ども
どんな美しい記念の晴れ着も
どんな華やかなお祝いの花束も
それだけではきみをおとなにしてくれない
他人のうちに自分と同じ美しさをみとめ
自分のうちに他人と同じ醜さをみとめ
でき上がったどんな権威にもしばられず
流れ動く多数の意見にまどわされず
とらわれぬ子どもの魂で
いまあるものを組み直しつくりかえる
それこそがおとなの始まり
永遠に終わらないおとなへの出発点
人間が人間になりつづけるための
苦しみと喜びの方法論だ
Web site から/読売新聞4月3日