人工知能は人間を超えるか この本の読み方
ここまで紹介してきたことが、最近、世間をに賑わせている人工知能の話題や主要なニュースである。多くのメディアがこのような論調で「人工知能はすごい」「どこまで進化するのか」と思う一方で、「人工知能は怖い」「人間はいらなくなるのでは」と感じたのではないだろうか。
ところが、人工知能の技術を正しく理解すると、事情はだいぶ違ってくる。
何が違うかというと、人工知能について報道されているニュースや出来事の中には、「本当にすごいこと」と「実はそんなにすごくないこと」が混ざっている。「すでに実現したこと」と「もうすぐ実現しそうなこと」と「実現しそうもないこと(夢物語)」もごっちゃになっている。さらには、人工知能の定義もさまざまなものが混ざっている。それが混乱のもとなのだ。
人工知能の研究には長い歴史がある。その時々で、最新の技術は違ってくる。画期的な新製品だと思ったら、中身は「とっくの昔に実現した技術の焼き直し」かもしれない。どれが最新の技術なのか。本書を読めば、それを見極める「勘どころ」をつかむことができるはずだ。
本書の第1章のテーマは「人工知能とは何か」。専門家と一般のみなさんの間にある認識のずれを明らかにする。第2章から第4章では、人工知能の歴史をできるだけわかりやすく説明した。第2章では将棋やチェス之話題に触れ、第3章ではワトソンなど「知識」に支えられた人工知能について、第4章では検索エンジンなどで使われる機械学習について紹介する。時代を追って説明することで、それぞれの時代に何ができて何ができなかったのか。理解しやすくなるだろう。
この3つの章を読み切るのは、少し骨が折れるかもしれない。「お勉強」的なところもいくつか出てくる。でも、ここを押さえておくと、いまなぜ人工知能が盛り上がっているのか、その意味が理解できるはずだ。わかりにくいところは読み飛ばしても構わないから、雰囲気だけでもつかんでほしい。
そして第4章の後半から、いよいよ本書の核心部分に差しかかる。それまでの人工知能が乗り越えられなかった壁とは結局、何だったのか。それがいま、どう変わろうとしているのか。この本のクライマックスのひとつである。
過去を振り返った後の第5章では、まさにいま起きている人工知能の本質的なブレークスルーを紹介する。ここまでくれば、何が「本当にすごい」のか、みなさんにもわかるはずだ。先に種明かしをしておくと、「グーグルがネコを認識する人工知能を開発した」という一見すると何でもないニュースが、実は、同じグ―グルが開発している自動運転車のニュースよりも、ずっと「本当にすごい」ことだとわかってもらえれば、本書はその役割を果たしたことになる。
第6章は、近未来の話である。この先、どういった形で技術が進んでいくのかを解説した。近い将来、何ができそうなのか、何が難しいのかが明らかになってくる。たとえば、人工知能は感情を持つのか。人工知能は人類を襲うようになるのか。そして、人工知能学会がなぜ倫理委員会をつくらねばならなかったのか。
最後の終章では、読者のみなさんがこれから何をすべきかについて述べている。自分の仕事がどう変わるのか、自分が職を失う危険がどのくらいあるのか。あるいは、どこに新しい事業のチャンスがあるのか。そして日本という国の復活に何が必要なのか。未来をより正しく予測し、正しく準備をしておくことは重要なことだ。みなさんのこれからの仕事や生活に少しでもプラスになることを祈っている。
人工知能の全体像を理解するのは少々「長旅」になるかもしれないが、ぜひ終わりまで付き合っていただきたい。
これから先、われわれの生活にさらに浸透してくる人工知能の全体像をいま、この時点でつかんでおけば、その知識はきっと、この先の5年、10年の羅針盤になるだろう。
そして、本書を最後まで読み終えるころには、あなたの「人工知能」に対するとらえ方が、より深く、より洗練されたものに変わっているはずだ。
では、その長い旅の手始めに、次の第1章では、「人工知能はまだできていない」という衝撃の事実からお伝えしよう。