今月の言葉抄 2008年12月

素粒子は粒子であるか

10 むすび

以上述べたところによって、電子や光子やその他の素粒子は米粒のようなものと非常に異なったものであることが わかった。それは自己同一性をもたないという点でむしろ電光ニュースの光点のようなものであることがわかったが、 さらにまた運動の道筋を持たないという点で、この光点とも異なったものである。
素粒子は電光ニュースに似ているという点で、それは場の方程式で記述されることになるが、この時の場というものも、 古い物理学者の考えた場の考え方をそのままもってくることは出来ない。それでは素粒子の状態をヴェクトル的に考えるという 立場がとられていないからである。
そこでわれわれは、場の考えと、状態ヴェクトルの考えとを、うまく合わせて素粒子の理論を作りあげる。それが現在の 素粒子論である。
こうして出来た素粒子論は、素粒子のいろいろな性質、特に日常的な考え方からみてはなはだ奇妙にみえた性質をうまく 説明してくれる。そういう意味でこの素粒子論は非常な成功をおさめた。
しかし、こうして出来た素粒子論は、いろいろの素粒子の間の関係、相互作用のしかたなどの問題にはまだ満足な答えを 与えてくれない。そういう点からみて、この素粒子論はまだまだ究極的なものとは考えられない。
現在の素粒子論はまだこういう不満足な点があるということは、一面残念なことであるが、しかし、完全でないということは、 多面未来に多くの可能性を蔵していることにもなる。こう考えてわれわれは将来に大きな期待をかけているのである。

「素粒子は粒子であるか」 ― 完 ―

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更新12月23日