ユダヤ教は世界でもっとも長く続いてきた宗教的伝統の一つであり、その実践者はユダヤ教徒として知られている。この敬意を払われている宗教は、3500年位前に、すなわち紀元前1500年頃に中近東で興った。それは唯一神宗教の中で、すなわちその実践者が唯一真なる神を信じる宗教の中で、多分、最古の宗教である。

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ユダヤ教にしたがう者たちを示す呼称がいくつかある。それはしばしば同じように使われているが、異なる意味をもつ。「ヘブルびと」(Hebrew)、「イスラエルびと」(Israelite)、「ユダヤ人」(Jew)という呼称は、いや「イスラエル人」(Israeli)という呼称さえも、ユダヤ教の歴史における異なる時期の人びとの集団を指す。

ヘブルびとは、ヤハウェ（英語ではJehovah)を自分たちの一なる神として受け入れたさまざまな部族の成員である。「ヘブル」という用語は、通常、最古の時代から前2000年紀の終わり頃までのユダヤ人を指すのに使用される。前2000年紀の終わり頃、ヘブルびとはカナンの土地を征服し、そこに定住した。創世記10章によれば、エベルがへブルびとの先祖であるといわれている。しかし、証拠によれば、人名「エブル」と用語「ヘブル」は何の関係もない。古代中近東の他の資料は、「ハビル」と呼ばれている民族に言及するが、おそらくそれが「ヘブル」の語源であろう。この二つの語は、「よそ者」とか「流浪者」を意味したと考えられる。

「イスラエルびと」という呼称は、二つの集団を指す。一般的に、イスラエルびとは、前1025年頃に、古代イスラエルの部族連合を形成したヘブルびとの子孫である。彼らには、多分、他の民族の者も加わっていたであろう。この呼称はまた、前922年頃から722年までつづいたイスラエルの北王国の住民を指しても使われる。イスラエルに住んでいた民族はすべてヘブルびとと関係しているので、また互いに関係しあっているので、彼らはみな一つの民族的集団であったと見なされている。イスラエルの北王国の諸部族は国家を形成したので、一つの国家的集団であったとも見なされている。

「ユダヤ人」（Jew）という呼称は、イｪフダ、すなわちユダに由来する。ユダ―前922年頃から586年まで存続したイスラエルの南王国―の王国名は、イスラエルの人びとを形成した多くの部族の一つにちなむものであり、それはやがて宗教国家になった。この国名は、ラテン語で「ユーダエア」（Judaea）である。「ユダヤ人」(Jew)は、「ユーダエアの住民」を意味するラテン語「ユーダエウス」(Judaeus)に由来する。紀元後70年以降、ユーダエアの人びとは、世界の各地に散らされたが、彼らは「ユーダエウス」という呼称―それは短縮されて「ユダヤ人」(Jew)となった―を保持した。彼らの宗教的・文化的習慣はユダヤ的生き方として知られるようになった。

今日、「ユダヤ人」(Jew)という呼称は、宗教的集団や文化的集団の一員を指してより幅広い仕方で用いられている。民族的集団や国家的集団を指してではない。ユダヤ教の実践者はユダヤ人である。ユダヤ的背景がありユダヤ文化にあずかる者もユダヤ人である。伝統的なユダヤ法によれば、ユダヤ人とは、母親がユダヤ人である者か、ラビの指導のもとにユダヤ教に改宗した者である。

ユダヤ人は世界の多くの国で見いだされる。ユダヤ人が最も多く住んでいるのは、アメリカ、イスラエル、それにヨーロッパの多くの国々である。「イスラエル人」(Israelis)は、現代のイスラエル国家の市民である。すべてのイスラエル人がユダヤ教を実践するユダヤ人ではないが、イスラエルの法によれば、すべてのユダヤ人はイスラエル人になる資格がある。

（「１　現代のユダヤ世界」から）

『ユダヤ教』（青土社　シリーズ世界の宗教　2004年9月）マルサ・モリスン/スティーヴン・F・ブラウン 著　秦　剛平 訳