人間について
人間とは何であるか、という問いに対しては、どんな答えも充分ではありえないはことをわれわれは見てきた。なぜなら、
人間が何でありうるかは、彼が人間であるあるかぎり、やはり彼の自由のなかにかくされているからである。このことは人間の
自由の結果から、やはり明らかになるだろう。人間が生きているかぎり、自分自身でたえず努力して獲得しなければならないものが
あるはずである。
人間について問う人は、一つの真に価値のある人間像を、また人間そのものを、見たいと思うであろう。にもかかわらず、
それを見ることはできない。規定されえないものを代表しているのが、人間の品位である。人間が人間であるのは、彼が自己のうちに
この品位をもち、またすべての他人のうちにこの品位を認めているからである。きわめて簡単に、カントはこのことを言いあらわした。
どんな人間も、人間によって手段として用いられてはならない。各人はみずから目的である。
(「5 人間」から)
『哲学の学校』(河出書房新社)カール・ヤスパース著 松浪信三郎訳