イエス伝

23 エルサレムに入城する

イエスの一行は、エリコを出発してエルサレムへ向かいます。エリコからエルサレムまでは、およそ25kmあります。 標高差およそ1100mの山道を登りますので、歩いて丁度一日の行程でしょうか。途中はユダの荒野のなかを行く道で、 草木は生育せず、ベドウィンの天幕が散見するだけで、町や村はありません。マタイやマルコでは、 エリコで盲人を治す奇跡を行うと、イエスはそのままエリコを通り過ぎて行きますが、 ルカでは徴税人の頭のザアカイの家に一泊しています。マルコによれば、エルサレムにイエスの一行が到着した時は夕暮れに なっていましたから、これが事実とすれば、エリコで一泊するのが行程として合っていることになります。

エリコの周辺には、イエスは何度も来ていたと思われます。ヨハネはヨルダン川の向こう側のベタニアという処で、 洗礼活動を始めました✽1。 イエスが世に出る決意をして、ガリラヤからヨハネの元に行ったときはエリコを通ったと思われますし、 その後ヨハネの元を去り、荒れ野で40日の試みに遭ったときも、エリコからそれほど遠くはなかったでしょう。 またエリコからエルサレムへの道も、イエスは何度も通った道だと思われます。イエスは世に出る前に、ひとりでエルサレムへ何度も 行っていたと思われるからです。

エルサレムの近くのベタニアまで来た時、イエスはちょっと芝居がかった演出をします。弟子たちにまだ誰も乗ったことのない 子ろばを調達させ、その上に服をかけると、イエスはそれに乗ってエルサレムへ向かいました。イエスについてきた人々は、 自分たちの服を道に敷いたり、街道筋のなつめやしの葉を切って敷き並べ、歓呼の声をあげてイエスのエルサレム入場 を祝うのである。あまりの騒ぎに、ファリサイ派のある人々が、弟子たちを叱ってくださいと言うと、それに対するイエスの 答えは実に印象的である。「言っておくが、もしこの人たちが黙れば、石が叫びだす」 ✽2とイエスは言い返しています。

1111 こうして、イエスはエルサレムに着いて、神殿の境内に入り、辺りの様子を見て回った後、もはや夕方になったので、 十二人を連れてベタニアへ出て行かれた。 (『マルコ伝』11:11)

エルサレム入城のときは、その到着の派手な演出に比べて、神殿には夕闇が迫り人影もまばらで、拍子抜けする結果になりますが、 なにかリアルな感じのする描写である。エルサレムに来てからイエスの一行は、オリーブ山の東南の麓にあって、エルサレムから 3kmほどの距離にあるベタニアに泊まります。ベタニアにはイエスが気を許した知人の家がありました。これはヨハネにしか 書かれていませんが、ラザロといい、マルタとマリアの姉妹と住んでいました。ラザロは死んでから墓に葬られて四日もたって いたが、イエスが生き返らせた奇跡で有名です✽3。 この兄弟姉妹たちの家がイエスの宿になりました。またマタイとマルコでは ベタニアで重い皮膚病のシモンの家に泊まったとあります✽4。 このシモンは突然この場面で名前が出てくるので、イエスがどこかでシモンの重い皮膚病を治し、シモンはイエスの信奉者になった のだと思います。イエスにはエルサレムの城内にも知人がいたようです。最後の晩餐の部屋と 食事を用意してくれたのがこの知人の家です。これらのことは、イエスは以前に何度かエルサレムを訪れていたことを 物語っています。

こうしてエルサレムの第一日は終わります。


✽1『ヨハネ福』1:28。
✽2『ルカ伝』19:40。
✽3『ヨハネ』11:1-44。
✽4『マタイ伝』26:6、『マルコ伝』14:3。
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公開日2009年10月13日