早蕨 あらすじ
薫 25歳 中納言
年が明けると、新年のあいさつとともに、山寺の阿闍梨から、いつものように蕨や土筆が届けられた。
匂宮は、母后にも帝にも外出が過ぎると忠告されて、気軽に宇治へ出かけられず、中君を京へ呼ぼうと考えた。薫も賛成し、宇治の山荘は、髭の宿直人と弁尼が残ることになった。中君は二条院へ移ることになった。二条院は、薫が三条院に住んでいるので、隣町である。
一方、夕霧は六の君に匂宮を迎えるべく裳着の準備をするのだった。宇治から、思いもかけぬ女を呼び寄せる宮を、夕霧は不快に思うのだった。
移転も落ち着いたころ、薫は二条院の桜を見がてらに中君を訪問するが、匂い宮は二人の仲を疑うのだった。
巻名の由来
年が改まり、山寺の阿闍梨から新春の蕨・土筆が贈られてきた。阿闍梨の歌に中君が応じる。
君にとてあまたの春を摘みしかば常を忘れぬ初蕨なり(阿闍梨)(48.1)
歌意 亡き宮に長年お摘みしてきた初蕨です。いつも通り献上いたします
この春はたれにか見せむ亡き人のかたみに摘める峰の早蕨 (中の君)(48.1)
歌意 この春は父も亡く姉もなく、誰にお見せしたらよろしいのか亡き父の形見に摘んでくださった峰の早蕨
早蕨 章立て
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- 48.1 宇治の新春、山の阿闍梨から山草が届く
- 薮し分かねば、春の光を見たまふにつけても、「いかでかくながらへにける月日ならむ」と、夢のやうにのみおぼえたまふ。
- 48.2 中君、阿闍梨に返事を書く
- 大事と思ひまはして詠み出だしつらむ、と思せば、歌の心ばへもいとあはれにて、なほざりに、さしも思さぬなめりと見ゆる言の葉を、めでたく好ましげに書き尽くしたまへる人の御文よりは、こよなく目とまりて、涙もこぼるれば、返り事、書かせたまふ。
- 48.3 正月下旬、薫、匂宮を訪問
- 内宴など、もの騒がしきころ過ぐして、中納言の君、「心にあまることをも、また誰れにかは語らはむ」と思しわびて、兵部卿宮の御方に参りたまへり。
- 48.4 匂宮、薫に中君を京に迎えることを言う
- 空のけしきもまた、げにぞあはれ知り顔に霞みわたれる。
- 48.5 中君、姉大君の服喪が明ける
- かしこにも、よき若人童など求めて、人びとは心ゆき顔にいそぎ思ひたれど、今はとてこの伏見を荒らし果てむも、いみじく心細ければ、嘆かれたまふこと尽きせぬを、さりとても、またせめて心ごはく、絶え籠もりてもたけかるまじく、「浅からぬ仲の契りも、絶え果てぬべき御住まひを、いかに思しえたるぞ」とのみ、怨みきこえたまふも、すこしはことわりなれば、いかがすべからむ、と思ひ乱れたまへり。
- 48.6 薫、中君が宇治を出立する前日に訪問
- みづからは、渡りたまはむこと明日とての、まだつとめておはしたり。
- 48.7 中君と薫、紅梅を見ながら和歌を詠み交す
- 御前近き紅梅の、色も香もなつかしきに、鴬だに見過ぐしがたげにうち鳴きて渡るめれば、まして「春や昔の」と心を惑はしたまふどちの御物語に、折あはれなりかし。風のさと吹き入るるに、花の香も客人の御匂ひも、橘ならねど、昔思ひ出でらるるつまなり。
- 48.8 薫、弁の尼と対面
- 弁ぞ、
「かやうの御供にも、思ひかけず長き命いとつらくおぼえはべるを、人もゆゆしく見思ふべければ、今は世にあるものとも人に知られはべらじ」
とて、容貌かたちも変へてけるを、しひて召し出でて、いとあはれと見たまふ。
- 48.9 弁の尼、中君と語る
- 思ほしのたまへるさまを語りて、弁は、いとど慰めがたくくれ惑ひたり。
- 48.10 中君、京へ向けて宇治を出発
- 皆かき払ひ、よろづとりしたためて、御車ども寄せて、御前の人びと、四位五位いと多かり。御みづからも、いみじうおはしまさまほしけれど、ことことしくなりて、なかなか悪しかるべければ、ただ忍びたるさまにもてなして、心もとなく思さる。
- 48.11 中君、京の二条院に到着
- 宵うち過ぎてぞおはし着きたる。見も知らぬさまに、目もかかやくやうなる殿造りの、三つば四つばなる中に引き入れて、宮、いつしかと待ちおはしましければ、御車のもとに、みづから寄らせたまひて下ろしたてまつりたまふ。
- 48.12 夕霧、六の君の裳着を行い、結婚を思案す
- 右の大殿は、六の君を宮にたてまつりたまはむこと、この月にと思し定めたりけるに、かく思ひの外の人を、このほどより先にと思し顔にかしづき据ゑたまひて、離れおはすれば、「いとものしげに思したり」と聞きたまふも、いとほしければ、御文は時々たてまつりたまふ。
- 48.13 薫、桜の花盛りに二条院を訪ね中君と語る
- 花盛りのほど、二条の院の桜を見やりたまふに、主なき宿のまづ思ひやられたまへば、「心やすくや」など、独りごちあまりて、宮の御もとに参りたまへり。
- 48.14 匂宮、中君と薫に疑心を抱く
- 人びとも、
「世の常に、ことことしくなもてなしきこえさせたまひそ。限りなき御心のほどをば、今しもこそ、見たてまつり知らせたまふさまをも、見えたてまつらせたまふべけれ」
など聞こゆれど、人伝てならず、ふとさし出で聞こえむことの、なほつつましきを、やすらひたまふほどに、宮、出でたまはむとて、御まかり申しに渡りたまへり。
早蕨 登場人物
- 薫 かおる 源氏の子 ····· (呼称)中納言・中納言殿・中納言の君・客人・殿・君、
- 匂宮 におうのみや 今上帝の第三親王 ····· (呼称)兵部卿宮・宮・男、
- 中君 なかのきみ 八の宮の二女 ····· (呼称)中の宮・姫宮、八の宮の二女
- 弁尼君 べんのあまぎみ ····· (呼称)弁
※ このページは、渋谷栄一氏の源氏物語の世界によっています。人物の紹介、見出し区分等すべて、氏のサイトからいただき、そのまま載せました。ただしあらすじは自前。氏の驚くべき労作に感謝します。
公開日2020年11月11日