野分 あらすじ
源氏 36歳 太政大臣
秋好む中宮の御殿の庭は秋色で鮮やかになり、秋草の花の景観は目を奪うほどだった。中宮は色が変わってゆくのを惜しんでいた。春を愛でる人も、この秋には及ばないと心変わりするほどだった。強い野分がやって来た。その夕刻、野分の見舞いに訪れた夕霧は、何気なく紫の上の対を通ると、妻戸が開いている隙からおくが見通せて、明らかにその人が見えた。普段から、近づかないように注意されていたので、はっきり見たことはなかったのである。夕霧にうつった紫の上は、つぎのように描写されている。
御屏風も、風のいたく吹きければ、押し畳み寄せたるに、見通しあらはなる廂の御座にゐたまへる人、ものに紛るべくもあらず、気高くきよらに、さとにほふ心地して、春の曙の霞の間より、おもしろき樺桜の咲き乱れたるを見る心地す。 あぢきなく、見たてまつるわが顔にも移り来るやうに、愛敬はにほひ散りて、またなくめづらしき人の御さまなり。
(屏風も、風が強く吹いているので、折りたたんで寄せていて、すっかり見通せる廂の御座にいた人、紛れもない、気高く清らかで、さっと照り映える心地して、春の曙の霞の間から、風情のある樺桜の咲き乱れるのを見る心地がした。うっとりして見ている自分の顔に移ってくるかのように、愛嬌が匂い散ってきて、実に珍しく稀有な人の有様であった)
野分が激しく吹いた翌朝、夕霧は大宮のいる三条院へ見舞いに上がり、それから源氏のいる六条院へ嵐見舞いにむかった。それぞれの様子を聞いてから、源氏は怖がりの中宮を見舞うように指示し、夕霧は、源氏が自ら女君たちに順に中宮、明石の君、玉鬘、花散里と嵐見舞に尋ねるお供するのだった。
巻名の由来
この巻で野分が来たことが記述されたので、そのことによる。歌は特にない。
野分 章立て
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- 28.1 八月野分の襲来
- 中宮の御前おまえに、秋の花を植ゑさせたまへること、常の年よりも見所多く、色種いろくさを尽くして、・・・。
- 28.2 夕霧、紫の上を垣間見る
- 南の御殿にも、前栽つくろはせたまひける折にしも、かく吹き出でて、 もとあらの小萩、はしたなく待ちえたる風のけしきなり。
- 28.3 夕霧、三条宮邸へ赴く
- 人びと参りて、
「いといかめしう吹きぬべき風にはべり。艮の方より吹きはべれば、この御前はのどけきなり。
- 28.4 夕霧、暁方に六条院へ戻る
- 暁方に風すこししめりて、村雨のやうに降り出づ。
- 28.5 源氏、夕霧と語る
- 御格子を御手づから引き上げたまへば、気近きかたはらいたさに、立ち退きてさぶらひたまふ。
- 28.6 夕霧、中宮を見舞う
- 中将下りて、中の廊の戸より通りて、参りたまふ。
- 28.7 源氏、中宮を見舞う
- 南の御殿には、御格子参りわたして、昨夜、見捨てがたかりし花どもの、行方も知らぬやうにてしをれ伏したるを見たまひけり。
- 28.8 源氏、明石御方を見舞う
- こなたより、やがて北に通りて、明石の御方を見やりたまへば、はかばかしき家司だつ人なども見えず、・・・。
- 28.9 源氏、玉鬘を見舞う
- 西の対には、恐ろしと思ひ明かしたまひける、名残に、寝過ぐして、今ぞ鏡なども見たまひける。
- 28.10 夕霧、源氏と玉鬘を垣間見る
- 中将、いとこまやかに聞こえたまふを、「いかでこの御容貌見てしがな」と思ひわたる心にて、隅の間の御簾の、・・・。
- 28.11 源氏、花散里を見舞う
- 東の御方へ、これよりぞ渡りたまふ。
- 28.12 夕霧、雲井雁に手紙を書く
- むつかしき方々めぐりたまふ御供に歩きて、中将は、なま心やましう、書かまほしき文など、日たけぬるを思ひつつ、・・・。
- 28.13 夕霧、明石姫君を垣間見る
- 渡らせたまふとて、人びとうちそよめき、几帳引き直しなどす。
- 28.14 内大臣、大宮を訪う
- 祖母宮の御もとにも参りたまへれば、のどやかにて御行なひしたまふ。
野分 登場人物
- 光る源氏 ひかるげんじ 三十六歳 ····· (呼称)大臣・殿、
- 夕霧 ゆうぎり 光る源氏の長男 ····· (呼称)中将の君・中将・朝臣・君、
- 玉鬘 たまかづら 内大臣の娘 ····· (呼称)西の対・女君・女、
- 内大臣 ないだいじん ·····(呼称)父の大臣・内の大殿
- 雲井雁 くもいのかり ····· (呼称)姫君
- 秋好中宮 あきこのむちゅうぐう ····· (呼称)中宮・宮
- 紫の上 むらさきのうえ ····· (呼称)南の上・女君・女
- 花散里 はなちるさと ····· (呼称)東の御方・東の町
- 明石御方 あかしのおおんかた ····· (呼称)明石の御方・北の御殿
- 明石姫君 あかしのひめぎみ ····· (呼称)姫君
- 大宮 おおみや 桐壷帝の妹 ····· (呼称)祖母宮・宮
※ このページは、渋谷栄一氏の源氏物語の世界によっています。人物の紹介、見出し区分等すべて、氏のサイトからいただき、そのまま載せました。ただし章分けは省略しました。氏の驚くべき労作に感謝します。
公開日2019年8月15日/ 改定2023年5月5日