明石 あらすじ
源氏 27~28歳 無位無官→権大納言
それに呼応するように明石から舟をしたてて、明石入道が源氏を迎えに来る。入道にも夢に、迎えの舟を出せとお告げがあったのだった。源氏はこうして入道の邸のある明石へ移った。海辺の館は堂々たる造りだが、岡辺のほうに数寄屋造りの瀟洒な住まいがあって、入道の娘が住んでいた。娘は父ゆずりの琵琶の名手だった。入道はなんとかして娘を源氏にさし上げようとしていた。
源氏は岡辺の住まいに通うようになり、紫の上を気にしながらも気位の高い明石の君に惹かれるようになった。やがて明石の君に懐妊の兆しが現れる。そうこうするうちに、帰京の宣旨が下った。都でも天変地異が起こり、朱雀帝は眼病を患い、大后も病がちになっていた。
源氏は元の位から昇進して、権大納言になった。連座した家臣たちも元の官職を賜り復帰を許された。流謫は2年数か月に及んだ。
巻名の由来
明石がこの巻の舞台である。それを巻名とした。
明石 章立て
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- 13.1 須磨の嵐続く
- なほ雨風やまず、雷鳴り静まらで、日ごろになりぬ。
- 13.2 光る源氏の祈り
- 「かくしつつ世は尽きぬべきにや」と思さるるに、そのまたの日の暁より、風いみじう吹き、潮高う満ちて、波の音荒きこと、巌も山も残るまじきけしきなり。雷の鳴りひらめくさま、さらに言はむ方なくて、「落ちかかりぬ」とおぼゆるに、ある限りさかしき人なし。
- 13.3 嵐収まる
- やうやう風なほり、雨の脚しめり、星の光も見ゆるに、この御座所のいとめづらかなるも、いとかたじけなくて、寝殿に返し移したてまつらむとするに、
「焼け残りたる方も疎ましげに、そこらの人の踏みとどろかし惑へるに、御簾などもみな吹き散らしてけり」
「夜を明してこそは」
とたどりあへるに、君は御念誦したまひて、思しめぐらすに、いと心あわたたし。
- 13.4 明石入道の迎えの舟
- 渚に小さやかなる舟寄せて、人二、三人ばかり、この旅の御宿りをさして参る。
- 13.5 明石入道の浜の館
- 浜のさま、げにいと心ことなり。
- 13.6 京への手紙
- すこし御心静まりては、京の御文ども聞こえたまふ。
- 13.7 明石の入道とその娘
- 明石の入道、行なひ勤めたるさま、いみじう思ひ澄ましたるを、ただこの娘一人をもてわづらひたるけしき、いとかたはらいたきまで、時々漏らし愁へきこゆ。
- 13.8 夏四月となる
- 四月になりぬ。
- 13.9 源氏、入道と琴を合奏
- 入道もえ堪へで、供養法たゆみて、急ぎ参れり。
- 13.10 入道の問わず語り
- いたく更けゆくままに、浜風涼しうて、月も入り方になるままに、澄みまさり、静かなるほどに、御物語残りなく聞こえて、この浦に住みはじめしほどの心づかひ、後の世を勤むるさま、かきくづし聞こえて、この娘のありさま、問はず語りに聞こゆ。をかしきものの、さすがにあはれと聞きたまふ節もあり。
- 13.11 明石の娘へ懸想文
- 思ふこと、かつがつ叶ひぬる心地して、涼しう思ひゐたるに、またの日の昼つ方、岡辺に御文つかはす。心恥づかしきさまなめるも、なかなか、かかるものの隈にぞ、思ひの外なることも籠もるべかめると、心づかひしたまひて、高麗の胡桃色の紙に、えならずひきつくろひて、
「をちこちも知らぬ雲居に眺めわび
かすめし宿の梢をぞ訪ふ
『思ふには』」
とばかりやありけむ。
- 13.12 都の天変地異
- その年、朝廷に、もののさとししきりて、もの騒がしきこと多かり。
- 13.13 明石の侘び住まい
- 明石には、例の、秋、浜風のことなるに、一人寝もまめやかにものわびしうて、入道にも折々語らはせたまふ。
- 13.14 明石の君を初めて訪ねる
- 忍びて吉よろしき日見て、母君のとかく思ひわづらふを聞き入れず、弟子どもなどにだに知らせず、心一つに立ちゐ、かかやくばかりしつらひて、十三日の月のはなやかにさし出でたるに、ただ「あたら夜の」と聞こえたり。
- 13.15 紫の君に手紙
- 二条の君の、風のつてにも漏り聞きたまはむことは、「たはぶれにても、心の隔てありけると、思ひ疎まれたてまつらむ、心苦しう恥づかしう」思さるるも、あながちなる御心ざしのほどなりかし。
- 13.16 明石の君の嘆き
-
女、思ひしもしるきに、今ぞまことに身も投げつべき心地する。
- 13.17 七月二十日過ぎ、帰京の宣旨下る
- 年変はりぬ。
- 13.18 明石の君の懐妊
- そのころは、夜離れなく語らひたまふ。
- 13.19 離別間近の日
- 明後日ばかりになりて、例のやうにいたくも更かさで渡りたまへり。
- 13.20 離別の朝
- 立ちたまふ暁は、夜深く出でたまひて、御迎への人びとも騒がしければ、心も空なれど、人まをはからひて、
「うち捨てて立つも悲しき浦波の
名残いかにと思ひやるかな」
御返り、
「年経つる苫屋も荒れて憂き波の
返る方にや身をたぐへまし」
と、うち思ひけるままなるを見たまふに、忍びたまへど、ほろほろとこぼれぬ。心知らぬ人びとは、
「なほかかる御住まひなれど、年ごろといふばかり馴れたまへるを、今はと思すは、さもあることぞかし」
など見たてまつる。
- 13.21 残された明石の君の嘆き
- 正身そうじみの心地、たとふべき方なくて、かうしも人に見えじと思ひ沈むれど、身の憂きをもとにて、わりなきことなれど、うち捨てたまへる恨みのやる方なきに、たけきこととは、ただ涙に沈めり。母君も慰めわびては、
「何に、かく心尽くしなることを思ひそめけむ。すべて、ひがひがしき人に従ひける心のおこたりぞ」
と言ふ。
- 13.22 難波の御祓い
- 君は、難波の方に渡りて御祓へしたまひて、住吉にも、平らかにて、 いろいろの願果たし申すべきよし、御使して申させたまふ。にはかに所狭うて、みづからはこのたびえ詣でたまはず、ことなる御逍遥などなくて、急ぎ入りたまひぬ。
- 13.23 源氏、参内
- 召しありて、内裏に参りたまふ。
- 13.24 明石の君への手紙、他
- まことや、かの明石には、返る波に御文遣はす。