帚木 あらすじ
源氏 23~25歳 参議近衛大将
六条御息所は、源氏への愛情を絶とうと決意し、娘の斎宮とともに伊勢へ下ろうとしていた。源氏は秋の風情の深い神域の野の宮(下向前の仮寓)に別れの挨拶に行く。
遥けき野辺を分け入りたまふより、いとものあはれなり。秋の花、みな衰へつつ、浅茅が原も枯れ枯れなる虫の音に、松風、すごく吹きあはせて、そのこととも聞き分かれぬほどに、物の音ども絶え絶え聞こえたる、いと艶なり。
(広々とした野辺を分け入ると、深い秋の気色があった。秋の花はみな衰えて、一面に枯れた雑草から虫の音も絶え絶えに聞こえ、松風が強く吹いて、何の琴の音かわからないがかすかに聞こえて、まことに趣があった)
ここで源氏は、明け方まで逢って、六条御息所との最後の逢瀬となる。
桐壷院は重態となり、春宮と源氏を重んずるよう遺言して崩御する。譲位しても通常の
政は全部やっていたので、気の弱い朱雀帝と執念深い弘徽殿女御と性格の悪い右大臣の政では今後のことを懸念する声が多かった。司召しでも、源氏方の関係者はことごとに昇進しなくなった。権勢は反源氏の右大臣方に移った。。源氏はつれづれ侘ぶる日々を暮らす。
朧月夜との逢瀬は続いていた。
源氏は思う処があって、雲林院に参篭する。僧たちを集めて仏典の優劣を議論させたりした。
念仏衆生摂取不捨と唱えるお経は羨ましいと思うが、まず紫の上のことが思われ、とても世を捨てられそうになかった。
一方源氏は藤壺が忘れられず、どうにかして逢おうとする。ある時は、首尾よく侵入し藤壺の閨に侵入したとき、急に藤壺の具合が悪くなり、周囲が騒ぎとなって人が集まり、源氏は終日塗籠に閉じこもって隠れるという事態になった。
藤壺は後見として源氏を頼りにしているが、源氏との密通が露見して、子が春宮の地位が危うくなるのをなによりも怖れ、法華八講を催して、その最終日に出家した。
朧月夜とは、いつもは内裏の朧月夜の部屋で危うい逢瀬を重ねていたが、朧月夜が
瘧病のため里に下がっている時も、右大臣家に忍んでいたが、ある雷の烈しく鳴る夜、人々が異常気象に集まってきて、朝まで帰れなくなり、見回りの右大臣に見つかってしまう。
右大臣と弘徽殿女御は源氏の追放を画策する。
巻名の由来
源氏は、伊勢へ行く六条御息所のいる仮宮を訪れ、変わらぬ気持ちを示すため、榊を手折って、禁制の神垣を超えて来ましたと言って差し出す。
神垣はしるしの杉もなきものをいかにまがへて折れる榊ぞ (六条御息所) (10.2)
歌意 こちらの神垣には目印の杉もありませんのに榊を折って何をまちがって来られたのですか
少女子があたりと思へば榊葉の香をなつかしみとめてこそ折れ (源氏) (10.2)
歌意 この辺りに神の乙女子がいると思って榊の香をなつかしんで折ってきたのです。
賢木 章立て
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- 10.1 六条御息所、伊勢下向を決意
- 斎宮の御下り、近うなりゆくままに、御息所、もの心細く思ほす。
- 10. 2 野の宮訪問と暁の別れ
- 九月七日ばかりなれば、「むげに今日明日」と思すに、女方も心あわたたしけれど、「立ちながら」と、たびたび御消息ありければ、・・・。
- 10. 3 伊勢下向の日決定
-
御文、常よりもこまやかなるは、思しなびくばかりなれど、またうち返し、定めかねたまふべきことならねば、いとかひなし。
- 10. 4 斎宮、宮中へ向かう
- 十六日、桂川にて御祓へしたまふ。常の儀式にまさりて、長奉送使ちょうぶそうしなど、さらぬ上達部も、・・・。
- 10. 5 斎宮、伊勢へ向かう
- 心にくくよしある御けはひなれば、物見車多かる日なり。申の時に内裏に参りたまふ。
- 10. 6 十月、桐壺院、重体となる
- 院の御悩み、神無月になりては、いと重くおはします。世の中に惜しみきこえぬ人なし。内裏にも、思し嘆きて行幸あり。
- 10. 7 十一月一日、桐壺院、崩御
- 大后も、参りたまはむとするを、中宮のかく添ひおはするに、御心置かれて、思しやすらふほどに、・・・。
- 10. 8 諒闇の新年となる
- 年かへりぬれど、世の中今めかしきことなく静かなり。まして大将殿は、もの憂くて籠もりゐたまへり。
- 10. 9 源氏朧月夜と逢瀬を重ねる
- 年かへりぬれど、世の中今めかしきことなく静かなり。まして大将殿は、もの憂くて籠もりゐたまへり。
- 10. 10 源氏、再び藤壺に迫る
- 内裏に参りたまはむことは、うひうひしく、所狭く思しなりて、春宮を見たてまつりたまはぬを、おぼつかなく思ほえたまふ。
- 10. 11 藤壺、出家を決意
- 「いづこを面にてかは、またも見えたてまつらむ。いとほしと思し知るばかり」と思して、御文も聞こえたまはず。
- 10. 12 秋、雲林院に参籠
- 大将の君は、宮をいと恋しう思ひきこえたまへど、「あさましき御心のほどを、時々は、思ひ知るさまにも見せたてまつらむ」と、・・・。
- 10. 13 朝顔斎院と和歌を贈答
- 吹き交ふ風も近きほどにて、斎院にも聞こえたまひけり。
- 10. 14 源氏、二条院に帰邸
- 女君は、日ごろのほどに、ねびまさりたまへる心地して、いといたうしづまりたまひて、世の中いかがあらむと思へるけしきの、・・・。
- 10. 15 朱雀帝と対面
- おほかたのことども、宮の御事に触れたることなどをば、うち頼めるさまに、すくよかなる御返りばかり聞こえたまへるを、・・・。
- 10. 16 藤壺に挨拶
- 「御前にさぶらひて、今まで、更かしはべりにける」
と、聞こえたまふ。
- 10. 17 初冬のころ、源氏朧月夜と和歌贈答
- 大将、頭の弁の誦じつることを思ふに、御心の鬼に、世の中わづらはしうおぼえたまひて、・・・。
- 10. 18 十一月一日、故桐壷院の御国忌
- 中宮は、院の御はてのことにうち続き、御八講みはこうのいそぎをさまざまに心づかひせさせたまひけり。
- 10. 19 十二月十日過ぎ、藤壺、法華八講主催の後、出家す
-
十二月十余日ばかり、中宮の御八講なり。
- 10. 20 後に残された源氏
- 殿にても、わが御方に一人うち臥したまひて、御目もあはず、世の中厭はしう思さるるにも、春宮の御ことのみぞ心苦しき。
- 10. 21 諒闇明けの新年を迎える
- 年も変はりぬれば、内裏わたりはなやかに、内宴、踏歌など聞きたまふも、もののみあはれにて、御行なひしめやかにしたまひつつ、・・・。
- 10. 22 源氏一派の人々の不遇
-
司召のころ、この宮の人は、賜はるべき官も得ず、おほかたの道理にても、宮の御賜はりにても、・・・。
- 10. 23 韻塞ぎに無聊を送る
- 夏の雨、のどかに降りて、つれづれなるころ、中将、さるべき集どもあまた持たせて参りたまへり。
- 10. 24 源氏、朧月夜と密会中、右大臣に発見される
- そのころ、尚侍かむの君まかでたまへり。
- 10. 25 右大臣、源氏追放を画策する
- 大臣は、思ひのままに、籠めたるところおはせぬ本性に、いとど老いの御ひがみさへ添ひたまふに、・・・。
賢木 登場人物
- 光る源氏 ひかるげんじ 二十三歳から二十五歳 参議兼近衛右大将 ····· (呼称)大将の君・大将・大将殿・右大将・男・君・殿
- 頭中将 とうのちゅうじょう 故葵の上の兄 ····· (呼称)三位中将・中将
- 桐壺の院 きりつぼのいん 光る源氏の父 ····· (呼称)院の上・院・故院
- 朱雀帝 すざくてい 光る源氏の兄 ····· (呼称)帝・内裏・今
- 弘徽殿大后 こきでんのおおぎさき 朱雀帝の母后 ····· (呼称)大后・后・大宮・后の宮・宮・宮の御方
- 藤壺の宮 ふじつぼのみや 桐壷帝の后、東宮の母 ····· (呼称)中宮・宮・母宮
- 六条御息所 ろくじょうのみやすどころ 光る源氏の愛人 ····· (呼称)御息所・女君・女
- 斎宮 さいぐう 六条御息所の娘 ····· (呼称)宮
- 葵の上 あおいのうえ 光る源氏の正妻 ····· (呼称)大殿・殿・姫君
- 紫の上 むらさきのうえ 光る源氏の妻 ····· (呼称)西の対の姫君・対の姫君・女君・姫君
- 朧月夜の君 おぼろづきよのきみ 右大臣の娘、弘徽殿女御の妹 ····· (呼称)御匣殿・尚侍君・女君・女
- 朝顔の姫君 あさがおのひめぎみ 式部卿宮の娘、光る源氏の恋人の一人
····· (呼称)斎院・朝顔
- 兵部卿宮 ひょうぶきょうのみや 紫の上の父 ····· (呼称)親王・父親王・宮
- 左大臣 さだいじん 故葵の上の父 ····· (呼称)左大殿・左大臣・致仕大臣・大臣
※ このページは、渋谷栄一氏の源氏物語の世界によっています。人物の紹介、見出し区分等すべて、氏のサイトからいただき、そのまま載せました。ただし章分けは省略しました。氏の驚くべき労作に感謝します。
公開日2017年10月8日/改定2023年2月10日