葵 あらすじ
源氏 22~23歳 参議近衛大将
花宴から二年がたっている。桐壷帝が譲位し朱雀帝が即位した。藤壺の子が東宮になり、源氏が後見に指名される。
六条御息所は、源氏との絆を絶って、娘の斎宮と一緒に伊勢へ下ろうとしていた。賀茂の祭りの御禊の日、行列に供奉する源氏の姿を一目見ようと見物に来ていた六条御息所は、葵の上の車と下人たちが場所取りの争いになり、御息所の車は奥へ押しやられ車は壊されて、ひどいはずかしめを受けた。
一方お産に苦しんでいた葵の上は生霊に憑かれていると思われ、さかんに加持祈祷が行われた。源氏が御簾に入って葵の上に慰めの言葉をかけていると、いきなり懐かしそうな声で、
いで、あらずや。身の上のいと苦しきを、しばしやすめたまへと聞こえむとてなむ。かく参り来むともさらに思はぬを、もの思ふ人の魂は、げにあくがるるものになむありける
(いいえ、違います。この身がすごく苦しいので、しばし祈祷をやめていただきたいのです。こうして来るつもりはなかったのですが、物思う人の魂は、実に体を離れてさ迷うのです。)
と生霊が現れ、御息所その人特有の仕草もして、彼女の生霊が葵の上に取り付いていたのだとわかった。御息所の方では、加持祈祷に使われた芥子の香が衣や髪についてとれないのであった。
葵の上は、苦しんで男の子を産んだ。夕霧である。左大臣家一同の喜びもつかの間、司召しで皆が内裏に出かけているうちに、にわかに容体が悪くなり、葵の上は死んでしまった。
源氏は悲しみのなかで法事を済ませてもしばらくは左大臣家に籠り、やがて家のもの皆と別れて、二条院へ戻る。二条院では邸内をきれいにし、男も女も皆、主人を待っていた。源氏は、自邸に戻ってつれづれに日々を過ごし、紫の上と新枕を交わして夫婦となるのだった。
巻名の由来
葵祭の当日源氏は紫の上と同乗し、見物にでかける。源典侍が来ていて歌の相聞になった。源氏はいい席を譲ってもらう。
はかなしや人のかざせる葵ゆゑ神の許しの今日を待ちける (源典侍) (9.3)
歌意 残念ですこといい女がお隣で葵をかざしているのに男女の逢瀬を神も許される祭りを楽しみに待っていたとは
かざしける心ぞあだにおもほゆる八十氏人になべて逢ふ日を (源氏)(9.3)
歌意 葵をかざして待っているあなたは誰彼なしになびく浮気者ですね
葵 章立て
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- 9.1 朱雀帝即位後の光る源氏
- 世の中かはりて後、よろづもの憂く思され、御身のやむごとなさも添ふにや、軽々しき御忍び歩きもつつましうて、・・・。
- 9. 2 新斎院御禊の見物
- そのころ、斎院も下りゐたまひて、后腹の女三宮ゐたまひぬ。
- 9. 3 賀茂祭の当日、紫の君と見物
- 今日は、二条院に離れおはして、祭見に出でたまふ。西の対に渡りたまひて、惟光に車のこと仰せたり。
- 9. 4 車争い後の六条御息所
- 御息所みやすみどころは、ものを思し乱るること、年ごろよりも多く添ひにけり。
- 9. 5 源氏、御息所を旅所に見舞う
- かかる御もの思ひの乱れに、御心地みここち、なほ例ならずのみ思さるれば、ほかに渡りたまひて、御修法みずほうなどせさせたまふ。
- 9. 6 葵の上に御息所のもののけ出現する
- †大殿には、御もののけいたう起こりて、いみじうわづらひたまふ。
- 9. 7 斎宮、秋に宮中の初斎院に入る
- 斎宮は、去年内裏に入りたまふべかりしを、さまざま障はることありて、この秋入りたまふ。
- 9. 8 葵の上、男子を出産
- すこし御声もしづまりたまへれば、隙おはするにやとて、宮の御湯持て寄せたまへるに、かき起こされたまひて、ほどなく生まれたまひぬ。
- 9. 9 秋の司召の夜、葵の上死去する
- 秋の司召つかさめしあるべき定めにて、大殿も参りたまへば、君達も労いたはり望みたまふことどもありて、殿の御あたり離れたまはねば、皆ひき続き出でたまひぬ。
- 9. 10 葵の上の葬送とその後
- こなたかなたの御送りの人ども、寺々の念仏僧など、そこら広き野に所もなし。院をばさらにも申さず、后の宮、春宮などの御使、・・・。
- 9. 11 三位中将と故人を追慕する
- 御法事など過ぎぬれど、正日までは、なほ籠もりおはす。
- 9. 12 源氏、左大臣邸を辞去する
- 君は、かくてのみも、いかでかはつくづくと過ぐしたまはむとて、院へ参りたまふ。御車さし出でて、御前ごぜんなど参り集るほど、・・・。
- 9. 13 源氏、紫の君と新手枕を交わす
- 二条院には、方々払ひみがきて、男女、待ちきこえたり。上臈ども皆参う上りて、我も我もと装束き、化粧じたるを見るにつけても、・・・。
- 9. 14 結婚の儀式の夜
- その夜さり、亥の子餅もちい参らせたり。
「この餅、かう数々に所狭きさまにはあらで、明日の暮れに参らせよ。
- 9. 15 新年の参賀と左大臣邸へ挨拶回り
- 朔日の日は、例の、院に参りたまひてぞ、内裏、春宮などにも参りたまふ。
葵 登場人物
- 光る源氏 ひかるげんじ 二十二歳から二十三歳 参議兼近衛右大将 ····· (呼称) 大将の君・大将・大将殿・男君
- 頭中将 とうのちゅうじょう 中将、葵の上の兄 ····· (呼称) 三位中将・中将の君
- 桐壺帝 きりつぼのみかど 光る源氏の父 ····· (呼称) 院・帝、
- 弘徽殿女御 こうきでんのにょうご 桐壺帝の女御、東宮の母 ····· (呼称) 今后・后
- 藤壺の宮 ふじつぼのみや 桐壺帝の后、光る源氏の継母 ····· (呼称) 后の宮・中宮
- 葵の上 あおいのうえ 光る源氏の正妻 ····· (呼称) 大殿・殿・姫君
- 六条御息所 ろくじょうのみやすどころ 光る源氏の愛人 ····· (呼称) 御息所・女
- 紫の上 むらさきのうえ 光る源氏の妻 ····· (呼称) 姫君・二条の君・対の姫君・女君
- 朧月夜の君 おぼろづきよのきみ 弘徽殿女御の妹 ····· (呼称) 御匣殿、右大臣の娘
- 朝顔の姫君 あさがおのひめぎみ 式部卿宮の娘、光る源氏の恋人の一人 ····· (呼称) 姫君・朝顔の宮
※ このページは、渋谷栄一氏の源氏物語の世界によっています。人物の紹介、見出し区分等すべて、氏のサイトからいただき、そのまま載せました。ただしあらすじは自前。氏の驚くべき労作に感謝します。
公開日2017年9月25日/ 改定2023年1月27日