多世界宇宙
素粒子の最先端の理論に「超ひも理論」というのがあります。私は実験家なので、その高尚な数学は皆目理解できないのですが、
ひとつだけ超ひも理論の専門家が言っていることを紹介しましょう。この理論の数式を解いてみると、ほとんど無数の解が得られます。
その解の一つ一つが、ビッグバンで作ることができる宇宙のはずです。この無数にある宇宙は、いままで紹介した基本定数が
それぞれの宇宙で違っているため区別できる、とのことです。
無数に異なった宇宙の可能性があり、理論はそれらが実際に作られているはずだ、というのです。宇宙のことを universe
といいますでが、最初の uni は一つを表す言葉ですから、無数にある宇宙のことは、マルチバース、 multiverse と呼んでいます。
残念ながら、それぞれの宇宙の間で交信することはできませんから、私たちは別の宇宙が作られているかどうかを観測するすべ
がありません。残念ですね。
われわれが生きている宇宙は無数にある中のひとつのはずです。なぜたまたま先に紹介した基本定数をもった宇宙なのでしょうか。
理論家は苦し紛れに、それはわれわれが生存できる宇宙に、たまたま生きているに過ぎない、といっています。「人間原理、
anthropic principle 」といいます。しかし、多くの物理学者はこの原理に違和感を持っています。人間原理をかざされると、
科学はここで終わってしまい、あとはいままでにわかっている法則を応用する応用科学しか残されなくなってしまうからです。
私は人間原理は頭の隅におくことにして、自然の神秘をさらに観測によって追求していくことは、まだまだ人間の能力の
範囲内にあり、大いにやるべきだと思っています。
『戸塚教授の「科学入門」 E=mc2は美しい!』「6 自然な宇宙・自然界のスケールとは何か その3」より
(戸塚洋二著 講談社 2008年11月)