クムラン宗団の思想内容
クムラン宗団(文書)の基本的な思想内容を要約概観すると、次のようになる。
クムラン宗団は、現在を終末直前の時代(マルコ福音書1:15「神の王国は間近に迫っている」、マタイ福音書16:28 および平行箇所、ヨハネ黙示録1:3、22:10)、
あるいはむしろ、終末時代の初期段階とみなしている(この実現した終末論、あるいは実現しつつある終末論という見方は、新約聖書と共通する)。
彼らに旧約聖書の正しい解釈が(義の教師を通して)神から排他的に啓示され、特に旧約聖書の預言書の内容は現在の彼らを取りまく状況を予言したものである、
と考えており、旧約聖書特に預言書を、彼らの体験に直結させて解釈する(ルカ福音書4:21「この〈旧約聖〉書〈イザヤの言葉〉はあなた方が耳にした今日成就した」、
ルカ福音書10:23-24参照。新約聖書もまた旧約聖書はイエスの事実を予言したものである、とみなしている)。
預言者たちは、神により「油注がれた者(メシア)たち、定められた時を見る者たち」(「戦いの巻物」11:7-8)と呼ばれている。また、エルサレム神殿体制
を批判ないし否定し(マルコ福音書11:15-17と並行箇所、13:2と並行箇所、マタイ福音書21:33-46と並行箇所、使徒行伝7:48、17:24、ヘブル人への手紙9:11参照)、
ハスモン王朝をヘロデス王朝の腐敗堕落を厳しく糾弾し、神によるまったく新たしい神殿建立を、終末論的に待望している(エルサレム神殿批判は、旧約聖書正典から
いくつかの旧約偽典に引き継がれ教か¥されている。「シビラの託宣」第4巻、「ソロモンの詩篇」2:3、8:11-12、神の子になる新しい神殿の待望については
「第一エノク書」(「エチオピアエノク書」)90章、「ヨベル書」1:27参照)。「神殿巻物」についてはすでに記した(・・・)。
彼らは間近な終末における、モーセないしエリヤのごとき預言者と、二人のメシアの到来を信じているが、メシアの一人は祭司、もう一人は王的人物で、
前者はアロンの末裔、後者はダビデの末裔である。
『はじめての死海写本』(講談社現代新書 2003年11月)土岐健治著